竹野内豊「できることなら“演じたくない”」 現場で初めて抱く感情の大切さや人生観を語る

 10月31日より公開中の映画『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』は、父・ユウゾウ(堺正章)の死をきっかけに母・メイコ(風吹ジュン)を探す旅に出るハヤトと、死後の世界から彼を見守るユウゾウ、そして急逝した世界的歌手クレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)の姿を描く幻想的な物語だ。

 仕事に行き詰まり、酒に溺れる生活を送るハヤトを演じた竹野内豊は、「自身の人生の記憶を辿るように」役作りを行ったという。エリック・クー監督による“その場の空気を重視する”撮影現場で生まれた、計算のない演技アプローチの裏側に迫る。

できることなら「演じたくない」——竹野内豊にとっての演技

——本作では、死者であるユウゾウ(堺正章)やクレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)と、言葉を交わさないながらも同じ空間にいる場面が頻出していました。ファンタジックな設定を自然に成り立たせていてとても感銘を受けたのですが、どのように演じられていたのでしょうか?

竹野内豊(以下、竹野内):特に何か「役作り」をしたというよりは、僕自身もハヤトのように答えが見えずに苦しんでいた時期がありましたので、自分が今まで送ってきた人生の記憶を辿るように演じていました。いつも心がけていることですが「役者」という職業ではありますが、なるべく、できることなら「演じたくない」と思っています。たとえば悲しみを表現するにしても、「悲しみ=涙を流す」とは限りません。人間は涙を流すことだけが悲しみではなく、逆に涙が出なくて笑ってしまったり。いろいろな感情の表れ方があると思っています。

——計画的に何かを決め込むというより、アドリブ感を大切にされたと。

竹野内:クレアのコンサートを初めて観に行くシーンでハヤトは涙を浮かべていますが、台本上に具体的な心理描写は描かれていませんでした。しかしステージ上でクレアが歌っている姿を見ていると、それまでは自分の感情の表し方さえも忘れ、いつしか心にぽっかりと穴が開いてしまっていたハヤトの心にも、何か染み渡るものがありました。堺(正章)さんがすぐ隣にいたわけですが、父親のユウゾウとも生前あまりコミュニケーションを取ってこなかったと思うんですよね。その父からの愛情を目には見えないながらも感じて悲しいから泣くという気持ちではなくて、“なんだかよくわからないけど涙が流れてきてしまう”、そういう気持ちは大事にしていました。エリック監督の撮影するスピードはすごく速くて、現場に入ってテスト1回、段取りをして「はい、本番」となるんです。大体の場合は、本番でいろいろと技術的なタイミングが合わなかったりするときもあるので、何度かテストをしますが、とにかくテスト1回、本番1回。「豊がハッピーだったらもう次のシーン行こう」といった感じで撮影が進んでいきました。

——エリック・クー監督がその場の雰囲気を大切にする方だったわけですね。

竹野内:それはすごく感じました。監督も役者もどのスタッフも、おそらく事前に構想を練って……というよりも、その場で感じたものをそれぞれ表現されていたのかなと思います。エリック監督も多分同じで、日々の撮影をとにかく楽しんでいました。作品にもよりますが、どうしても日本だと、縦社会の傾向もあり、どこか互いに遠慮してしまう部分が少なからずありますが、エリック監督の撮影現場はとにかく楽しんでやろうと活気があって、各部一人ひとりが生き生きとしていて、何か疑問があったら監督にその場ですぐ相談して解決する。常にみんなの意見を尊重してくださる方でしたのでとてもフラットな撮影現場でした。なかなかこういう現場には出会えるものではないと思います。作風的には厳かではありますが、現場は本当に和やかでみんなで楽しく良い作品を作っていこうという空気に包まれていました。エリック監督は純粋な心をもつ少年のようで、自分の家族や仲間たちのことをいつも遠くから見守っているような優しい方でした。そういうお人柄が作品にも現れているのではないかなと思います。

関連記事