アニメ市場規模が最高値を更新 『鬼滅の刃』の“ドメスティック”さは未到の領域へ
「海外向け」とはなにか——結節点としての『鬼滅の刃』について
2024年のアニメ産業市場の規模は、前年比114.8%増加、総額3兆8407億円(最高値を更新)にのぼると、一般社団法人日本動画協会が発表した(※1)。とりわけ海外における拡大が顕著で前年比126.0%(2兆1702億円)、前年までほぼ同額だった国内市場(2024年は1兆6705億円、前年比102.8%)を大きく上回るかたちとなった。
こうした海外市場の拡大に、2025年は『鬼滅の刃』がさらなる貢献を果たすことはもはや確認するまでもない。現在上映中の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は国内で3カ月以上上映され続け、全世界での累計観客動員が7753万人、総興行収入はすでに約948億円になる(Sony Pictures Entertainment調べ、10月13日時点)。現時点で国内での観客動員が2554万人、興行収入が約375億円(※2)であることを考えれば、『鬼滅の刃』がどれほど海外で人気を得ているかが明確になるだろう。
『鬼滅の刃』が海外で人気を得るのには、無論複数の理由がある。しばしば言われるようにいわゆる「コロナ禍」における巣ごもり需要がおそらくはあり、加えて大正時代というレトロな時代設定や刀といった日本的なモチーフが人気を後押ししたことは、『NARUTO』が現在に至るまで海外において絶大な人気を誇っていることを考えれば、想像に難くない。さらに言えば本作はダークファンタジーで主要キャラクターが幾人も死ぬといったショッキングな展開もありつつ、根幹は「努力・友情・勝利」という『少年ジャンプ』の基本的なストーリーラインを踏襲している。このこともまた、海外での人気を勢いづけているだろう。他方、筆者の見立てでは『鬼滅の刃』がここまで爆発的な人気を得たことは決して必然ではない(無論完全な偶然でもないだろう)。『鬼滅の刃』が海外で人気を得る背後には、これまでに爛熟した文化的な文脈が横たわっている。本作を取り巻く制作環境はむしろ、この10〜15年をかけて培われてきた国内文化のある種の結節点であることを示しているようにも思われ、そしてそれは極めて内向きのものなのである。
2010年代のufotable
そもそも『鬼滅の刃』を制作するufotableは、この10〜15年で最も評価を獲得してきたスタジオのひとつと言ってよい。そのため2010年代のアニメを中心としたカルチャーにおいて、ufotableは重要な位置を占め続けてきた。とりわけ注目したいのはやはり『Fate』シリーズ(『Fate/Zero』、『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』、劇場版『Fate/stay night [Heaven's Feel]』)である。2010年代を通して製作されてきた本シリーズと『鬼滅の刃』に共通して見いだされる特徴が色調だろう。特に月明かりに照らされ、少し明るい、青みがかった夜の屋外シーン(『鬼滅の刃』では、直近だと鬼舞辻無惨が産屋敷邸に赴いた際に顕著である)は、明確に『Fate』シリーズとの関連をうかがわせる。
また同じような傾向がもっとも顕著に現れているのは、音楽や音声についてだろう。キャラクターのキャスティングを見てみれば、主要キャラクターからサブキャラクターに至るまでそうそうたるメンツがそろっている(例えば、宇髄天元の嫁、まきを・須磨・雛鶴の声優が石上静香・東山奈央・種崎敦美であることは目を見張るものがある)。そして『鬼滅の刃』で多くの主題歌を担当してきたLiSAは言うまでもなく2010年代を代表するアニソンシンガーである。『Angel Beats!』内のバンドGirls Dead Monsterのボーカル・ユイの歌唱担当に始まり、『Fate/Zero』、そして『ソードアート・オンライン』や『魔法科高校の劣等生』と数々のメインストリームとなる作品の主題歌を担当してきた。こうした声優・歌手の起用、というよりこうしたキャスティングが機能すること自体が、アニメを中心としたカルチャーのひとつの達成と見なすこともできるだろう。