『ひらやすみ』の“平屋”は実在した! 100軒超から探し当てた奇跡のロケセットに潜入
岡山天音が主演を務めるNHK夜ドラ『ひらやすみ』。タイトルにもある“平屋”のセットには、実在する空き家が使われている。
ロケ地に着いた瞬間、「まさにあの世界だ」と驚かされる空気感。引き戸を開いて家に一歩足を踏み入れれば、どこか懐かしい匂い、あのぬくもり――。
このたび制作統括の坂部康二、プロデューサーの大塚安希、美術担当の松田香代子に、リアルサウンド映画部が単独で話を伺うという贅沢な潜入取材が実現。平屋に込めた思いを、余すところなく語ってもらった。
100軒超から探し当てた「あえての2LDK」
制作にあたり要となったのは、やはり平屋選び。最初はセットを建てることも考えたが、縁側から庭へと続く空間のリアリティは、既存の建物には敵わない。そこで、原作の舞台となっている阿佐ヶ谷を中心に物件探しをスタート。最終的には栃木や群馬まで範囲を広げ、100軒を超える候補から約3カ月かけて理想的な物件にたどり着いた。
「この物件は2LDKなので、はじめはスタッフの待機場所なども考えて『ナシだろう』と思っていました。でも、もう少し広い物件を見たときに、キッチンから寝室までの歩数や動線、相手を呼んでからやって来るまでの時間もリアルじゃなくなってしまうなと。きっと役者さんも、実際の距離感のほうが演じやすいだろうと感じて、この物件に決めました」(大塚)
2025年5月上旬に、初めてのロケハン。そこから急ピッチで準備を進め、1カ月弱で完成にこぎつけた。
ゼロから作った濡れ縁と「ロケーションに救われた」庭
当たり前のように存在しているトタン屋根や濡れ縁も、実は撮影のためにゼロから作り上げたもの。主人公・ヒロトが将棋を指したり、食事したりするこの場所は、間近で見てもわからないほど平屋に馴染んでいる。
「角を削ったり、ペンキを落としたり、エイジングを施しています。通常の濡れ縁はもう少し奥行きが短いんですが、今回は芝居場がここになるので、おかしくない範囲で長くしています。この場所があるだけで、だいぶ原作のイメージに近づきますよね」(松田)
原作者の真造圭伍からのリクエストは、「季節を大事にすること」。そして、松田一番のお気に入りもまた、四季の移ろいが感じられるこの庭だという。
アジサイ、ムクゲなど、もともと植えられていた植物に加え、季節に合わせて造花を採用。芝生やシンボルツリーのエンジュはそのまま生かしており、松田は「ロケーションに救われました」と笑みを浮かべる。
ちなみに、隣家との境にあるブロック塀は、裏から見ると“THE 美術セット”。その横にある電灯もこの作品のために作られたもので、物語にも登場するというから見逃せない。
玄関を開けると、そこに広がるのはどこか懐かしい景色。初めて平屋を訪れたキャストたちも「原作そのまんまですね」と口をそろえ、夏にはそうめんや差し入れのアイスを縁側やちゃぶ台で思い思いに味わった。なかでも森七菜は、休憩中にも演じるなつみの部屋でくつろぐなど、“自分の家”のように過ごしているという。
ヒロトの部屋は、元の家主であるおばあちゃんの物とヒロトの物が混在する、どこか不思議で落ち着く空間。ヒロトとなつみの部屋を仕切る壁は新たに作られたもので、「周囲の壁と馴染むまで、塗装部に色合わせをしてもらいました。現場スタッフも本物の壁だと騙されるほどの仕上がりになったので『やった!』と思いました」(松田)と振り返った。
キッチンの入口にあったガラス戸は取り払い、壁はクリーニングをしてそのまま使用。坂部は「やはり狭さがネックで、(奥側から撮影する際には)電子レンジをどかしてカメラマンが立つなどギリギリいっぱい使っています」と舞台裏を明かし、「料理は飯島奈美さんがご担当されていますが、カラフルなキッチンと相まって、よりおいしく見えるはずです」とドラマの見どころを語った。