円井わん、『ばけばけ』で発揮するバイプレイヤー力 髙石あかりの“素顔”を引き出す存在に
これは非常に重要な発言ではないだろうか。私たち視聴者の多くもまた、変わり者なトキの日常をにこやかに見つめ、武士の生き様に頑なにこだわる松野家の男性陣に呆れながらも、何気ない日々のひとコマに目を細めずにはいられないでいるだろう。このことを考えると、サワは私たちを代表するような存在だといえそうだ。いや、彼女はトキの唯一無二の親友なのだから、サワが私たちを代表しているだなんて、さすがにちょっと言葉が過ぎたかもしれない。
ともあれ、『ばけばけ』はヒロイン・トキの人生を描くものであり、視聴者はその歩みに寄り添う存在だ。が、どれだけ彼女のそばに寄り添おうとしても、それには限界がある。トキの実体に触れられるわけではないのだ。そんな我々と彼女の間に、幼なじみのサワがいる。この重要なポジションを円井が的確に掴んでいることが、トキにとっても、視聴者にとっても、そして本作にとっても、とても大きい。
トキがひとりでいるときの感情は、基本的に内向きだ。彼女は視聴者の存在を知らないのだから。しかし誰かと一緒にいるときの彼女の感情の動きは、絶えず外側へと広がっていく。この多くを共有し合っているのがサワなのである。
家族の前で見せるものとはまた違う、親友相手だからこそ見せられる素顔というものが誰しもあるはず。私たちはサワの存在を介して、そんなトキの素顔をのぞくことができているのだ。非常に軽やかで柔軟性に富んだ髙石と円井のやり取りが、これを実現させている。
先述したガイドにて円井は、「あかりちゃんとは初共演ですが、幼なじみ役だからハグしようと提案したら快くOKしてくれたんです」と、撮影の裏話を明かし、「お芝居の間や波長がすごく合う」とも語っている。演技者としての器用さや技量の高さがあれば、思いどおりの表現ができるわけでは決してない。円井のようなアプローチが、演じる役に、ひいては作品そのものに、活力をもたらすのだろう。とりわけ映画シーンにおいて、あらゆるタイプの作家/作品から彼女が求められている理由は、こういうところにあるのかもしれない。もちろん、どんな役だって演じてみせる俳優としての下地があってこそだが。
公開が延期になってしまったが、内藤瑛亮監督の最新作『ヒグマ!!』は円井の新たな代表作になること間違いなしだ。彼女のポテンシャルの高さに誰もが驚くことだろう。封切られた暁には、スクリーンで彼女の真価を目撃してほしい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK