多部未華子、朝ドラは「出演して当然」 初ヒロイン作『つばさ』と『ばけばけ』に共通点?

 2026年度前期の朝ドラ(NHK連続テレビ小説)『風、薫る』に、多部未華子が出演することが発表された。多部といえば、同じく朝ドラ『つばさ』(2009年度前期)でヒロインの玉木つばさを演じたことで知られている。

 当時を知る視聴者は多部の“朝ドラヒロイン像”をどのように受け止めていたのか。ドラマ評論家の成馬零一氏は、『つばさ』の特徴についてこう語る。

多部未華子、『風、薫る』で“鹿鳴館の華”に 再びの朝ドラに「少しでも成長した姿を」

2026年度前期(東京制作)NHK連続テレビ小説『風、薫る』に多部未華子が出演することが発表された。  朝ドラ第114作目とな…

「『つばさ』はいま思い出しても特殊な朝ドラだったなと思います。多部さん演じる玉木つばさは“ハタチのおかん”として家の家事全般をおこなっていて、ゆくゆくは実家の和菓子屋も継ごうと考えている保守的な主人公として登場します。母親がすごく自由奔放な人で、夢を追って家を出ていったため家を守らないといけないという事情があったのですが、無意識に自分を抑制していた主人公が徐々に変わっていく物語となっていました。基本的に舞台となる埼玉県の中で物語が完結しているのも珍しい構成で、“上京”や都市部への滞在といった展開が描かれない。本作のベースにあるのが“ホームコメディ”なんですよね。久世光彦さんと向田邦子さんが作っていた『寺内貫太郎一家』(TBS系)のようなハチャメチャなホームコメディを朝ドラでやろうとしていたのだと思います。『ちゅらさん』(2001年度前期)や『ちりとてちん』(2007年度後期)あたりから朝ドラで久世光彦的なコメディをやる流れが少しずつ登場し、後の『あまちゃん』(2013年度前期)に繋がるわけですが、『つばさ』はちょうどその中間期にある作品だと思います。朝ドラが再注目される最大のきっかけとなった『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)の直前でもありますし、現代のようなSNS文化もなかったため、サブカルネタになるほどマニアックな朝ドラではないけれど、個性が強いため観る人を選ぶ作風でした。そのため賛否は別れましたが、熱狂的に支持していた視聴者も実は多かった隠れた傑作で、斬新な表現が多かった。特にオープニング映像はいま観ても卓越しています。佐内正史さんの写真を中心に映像が構成されていて、ちょうど『ばけばけ』(2025年度後期)のオープニング映像と似ていますね」

 続けて成馬氏は多部のヒロイン抜擢について「出演して当然」だったと語る。

「多部さんは当時からすでに完成されている役者だなと思っていました。今では良くも悪くも朝ドラに起用されること自体がドラマチックに思われがちで、俳優としての登竜門のような位置付けがあると思いますが、多部さんについてはそういった大袈裟な印象は良い意味でなかったというか、これだけの演技力があれば出演して当然だと自然に受け止めていました。そもそも朝ドラ自体の位置付けが現代と当時(2000年代)とでは少し違っていて、現在のように細部まで観られるようになり、作り手と俳優と視聴者にとっての巨大なイベントとなったのは、やはりSNSが普及しはじめてからのことだと思います。2000年代は番組の視聴手段も限られていましたし、朝ドラの評価も安定していなかった。その中で多部さんは実力のある若手俳優が自然に選ばれたなという印象でした。だから、朝ドラは17年間出演していなかったというのは逆に驚きました。『つばさ』出演前は、たとえば『山田太郎ものがたり』(TBS系)ではコメディに振り切れるし、『鹿男あをによし』(フジテレビ系)では鹿の神様と交信するミステリアスな少女を演じていて、当時から演技の幅も非常に大きかった。近年は母親役など年齢相応の役も自然に演じていて、『風、薫る』での大山捨松役も主人公にとってメンター的な役割を担うのだとしたら、それも上手く全うできるのだろうと思います 」

 『風、薫る』では「人生に多大な影響を及ぼす、“鹿鳴館の華”」と称されている人物を演じる多部未華子。朝ドラの“先輩”として、見上愛や上坂樹里にどんな影響を与えるのだろうか。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、2026年春~放送
出演:見上愛、上坂樹里
作:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春 橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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