命をかけた逃亡と捜索が展開 新たな“一夜限り”の犯罪映画 『ナイトコール』のリアリティ

犯罪映画『ナイトコール』のリアリティ

 『グッド・タイム』(2017年)、『ウルフズ』(2024年)、『それでも夜は訪れる』(2025年)、など、“一夜限り”の緊迫したストーリーを描く犯罪映画が、近年静かに注目を浴び始めている。厳密には“一夜”ではないものの、オスカー・ウィナーとなった『ANORA アノーラ』(2024年)もまた、運命の一夜を巡る人間ドラマを映し出した作品だった。

 そんななか、新たな“一夜限り”の犯罪映画が登場した。ギャングの大金を巡って、命をかけた逃亡と捜索が展開する『ナイトコール』である。ここでは、そんな本作の内容に迫りながら、舞台となった都市がかたちづくる迷宮のような世界と、それを描くことの意味について、できる限り深く考えていきたい。

 主人公は、緊急の鍵屋を営む青年マディ(ジョナサン・フェルトレ)。鍵のトラブルで困っている人々からの電話を受け取り、夜の街でバンを走らせ営業を続けている。今夜も彼は、“ナイトコール”を受け取ることに。それはアパートの一室のドアの鍵を開けるだけの、簡単な仕事のはずだった……。

 依頼人である、クレールと名乗る若い女性(ナターシャ・クリエフ)のかわいらしい頼みに、マディはついつい本人確認を怠ってドアを開けてしまう。だが、その部屋からクレールがギャングの大金を奪い去ったことで、マディもまた、ギャングから命を狙われ、大金の行方を追及されるはめになってしまうのだ。彼は自分の命を救うため、朝を迎えるまでに広大な夜の街で1人の女性と大金の入ったバッグを探さねばならなくなる。

 本作が長編初監督となる、ベルギーのミヒール・ブランシャールが舞台に選んだのは、ベルギーの首都ブリュッセル。古い街並みと高層ビル、無秩序な道路網が混在しているところが特徴で、ヨーロッパの歴史と現代が融合し、散策や美食を楽しめる魅力的な都市である。ぜひ、世界遺産となっている広場や、マグリット美術館などを巡り、街並みを眺めながら本場のベルギーワッフルやチョコレート、そしてビールを楽しみたいものだ。

 しかし、ブリュッセルはヨーロッパの都市のなかでは比較的犯罪率が高く、夜間はとくに薬物取引やギャングの活動が活発になるのだという。銃声や夜間の喧騒が響くエリアも少なくない。こうした危険なエリアでは、女性のみならず、善良な住民はできる限り夜間外出を避ける傾向にある。主人公のマディが犯罪に巻き込まれるのは、そうした夜の街を移動するリスクが現実の被害へと結びついてしまったケースだといえる。

 ブリュッセルの無秩序に発展した街並みは、まさに迷宮のようだ。これは、60年代から70年代にかけての無計画な発展によるもので、ヨーロッパでは、こうしたカオスな状況に陥った街を、皮肉を込めて「ブリュッセル化する」などと言う。本作では、観光客が立ち寄るランドマークよりも、そんな入り組んだ都市の片隅の風景が映し出される。

 マディは、そんな迷宮のなかで何度も逃亡をはかる。高架下、急な階段やエレベーターなど、上下移動も多い。地下鉄の階段を自転車でくだっていくシーンもある。都市の垂直性を意識しながら、上下左右の立体的な追跡劇、ドローンやステディカムを利用した躍動感ある撮影の組み合わせは、本作ならではのものだといえるだろう。

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