小日向文世の“クレイジー”ぶりは『ばけばけ』にピッタリ! “最後の武士”の説得力
髙石あかりがヒロインのトキ役で本格登場しているNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第2週。トキは松野家の働き手を得るため、そして貧乏脱出のチャンスとして婿を取ることを決意した。
松野家は総出で縁談探しに奔走。初登場からろうそくを頭につけ、相手を呪う“丑の刻参り”をしたり、突然うさぎ商売を始めたりしているトキの父・司之介(岡部たかし)は、相変わらずトンチンカンなことをしていてハラハラさせられる。そんな中、不気味なクレイジーさを見せているのが小日向文世演じるトキの祖父・勘右衛門である。
婿探しとして「婿! 婿!」と連呼しながら剣の稽古をしていた勘右衛門は、幕末をたくましく生き抜いた生粋の武士。明治になっても、この国を守るのは自分だと信じ、髷を結い、日々、侍の誇りを胸に生活している。
第7話で描かれたお見合いでは、司之介とともに侍の“正装姿”で堂々と登場。お見合い相手を驚かせていたが、勘右衛門自身はやっと決まりそうな縁談と久しぶりの侍姿が嬉しいのか終始笑顔を見せていた。この優しそうな笑顔でトキを「おじょ」と呼び、かわいがっている勘右衛門は“いいおじいちゃん”なのだが、武士の尊厳を脅かすことになると表情や身のこなしが一変。
第3話では家族に無断でうさぎ商売を始めた司之介に、「許さん!」と大声を出し、「刀を捨てるというのか!」と息子を切りつけんばかりに怒り狂っていた。結局、トキやフミ(池脇千鶴)の説得もあって、商売をすることを渋々了承した勘右衛門は、その後、また一変して商売道具であるうさぎをトキとともに愛でていた。あまり怒らなそうな穏やかな性格であることを感じられる分、“武士であること”にかける情熱とその風貌とのギャップに逆に恐怖を感じてしまうほどである。
しかしながら、このギャップのある演技こそが小日向の最も得意としているものではないだろうか。この世界に暮らしている八百万の神々の魂を宿した者が、その能力を使って起こした不可思議な事件を解決していくさまを描いたドラマ『全領域異常解決室』(2024年/フジテレビ系)では、捜査機関“全決”の局長を務める宇喜之民生を演じた小日向。五穀豊穣の神が宿っている料理上手な宇喜之は、ニコニコと手料理を振る舞ってメンバーをサポートする一方、ある事件を調べるために裏で暗躍していたメンバーの1人である妃花(福本莉子)の存在をギリギリまで明かさないなど謎めいたところがあった。局長という肩書、そしてこのミステリアスさが宇喜之を「決して怒らせてはならない人」であることを感じさせた。
『全領域異常解決室』で“調和”の役割を担う 小日向文世が放つ“何かある”怪しい存在感
今期のドラマの中でもっとも個性的なキャラクターたちが登場する作品といえば、やはり『全領域異常解決室』(フジテレビ系)だろうか。本…また、小日向が醸し出す雰囲気には「隠しておきたいこと」があることを強く意識させる。『降り積もれ孤独な死よ』(2024年/読売テレビ・日本テレビ系)で小日向が演じた灰川十三は、地下室から13人の子どもの白骨遺体が見つかった灰川邸死体遺棄事件の重要参考人。多くは語らず、見るからに怪しい雰囲気の灰川だったが、以前一緒に暮らし、成長した“子どもたち”は口々に「いい人だった」と言い、謎が深まっていく。しかも灰川はすぐに自分が13人を殺したと自供。しかもその直後に留置場で首を吊った状態で死亡する。だが、真犯人は灰川の実の息子で児童養護施設に預けられた後、警察官になった鈴木潤(佐藤大樹)。灰川は潤の存在を知っており、息子の罪を被るために自供したことが明らかになる。灰川は穏やかさを通り越した“無”の雰囲気を使って真犯人と息子への不器用な愛を隠したかったのだろう。
『ばけばけ』では、トキが一介の親戚である自分に、傳(堤真一)やタエ(北川景子)がとても優しいことを疑問に思っていた。すると勘右衛門は「まあまあいずれにしても、よいことだけん」と笑顔を見せつつ、「それより、ほら、夕飯にしなさい。どうせまだなんじゃろ?」と優しく話をそらした。だが、直後に映った勘右衛門の表情には色がなく、何かを考え込んでいるようにも見えた。司之介やフミもぎこちなく、何かトキに「隠しておきたいこと」があるのだろうか。いつもどこか不穏な空気が漂う世界観の『ばけばけ』。小日向の本領が発揮されるのは、これからなのかもしれない。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK