『宝島』『遠い山なみの光』『ちはやふる』 “多作イヤー”が示す広瀬すずのキャリアの新局面
2025年の広瀬すずは、まさに怒涛の出演ラッシュで幕を開けた。1月にはNetflixシリーズ『阿修羅のごとく』、地上波連続ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)が立て続けにスタート。さらに2月の『ゆきてかへらぬ』を皮切りに、9月までに映画4本が劇場公開され、現在は『宝島』が絶賛上映中だ。簡単に今年の出演作をまとめておこう。
『阿修羅のごとく』(1月9日配信/Netflix)
『クジャクのダンス、誰が見た?』(1月24日~3月28日放送/TBS系)
『ゆきてかへらぬ』(2月21日公開)
『片思い世界』(4月4日公開)
『ちはやふる-めぐり-』(7月9日~9月10日放送/日本テレビ系)
『遠い山なみの光』(9月5日公開)
『宝島』(9月19日公開)
これほどの露出は過去最多レベル。そのほとんどが主演級で、作品を背負う立場が続いている。しかも演じる役柄も多種多様で、ジャンルもキャラクター像も一つに収まらない。例えば、『阿修羅のごとく』。向田邦子脚本の名作をリメイクしたこのドラマでは、長女・綱子(宮沢りえ)、次女・巻子(尾野真千子)、三女・滝子(蒼井優)、そして四女・咲子(広瀬すず)が織りなす四姉妹の家族劇が描かれる。
広瀬すずといえば、透明感のある凛とした声質が思い浮かぶ。しかし咲子は、無名ボクサーと同棲しながらウエイトレスとして生計を立てるという、成熟の影に疲労をにじませた女性像。彼女はその役柄にあわせ、声に湿度を含ませてトーンをやや低めに抑え、生活感や陰影を浮かび上がらせている。
同じ“四姉妹もの”である『海街diary』では、当時15歳の広瀬すずが放つ瑞々しい声の響きが、ひたむきさや青春の純度と直結していた。だが『阿修羅のごとく』では、声の柔らかさに加えて疲れや迷いを織り込むことで、透明感の奥に現実の摩耗を背負った大人の女性を表現している。
その演技の深化は『ゆきてかへらぬ』にも表れている。広瀬が演じるのは、大正から昭和初期にかけて活躍した女優・長谷川泰子。年下の詩人・中原中也(木戸大聖)と燃えるような恋に身を投じ、憂いを帯びた表情と湿度のある声で、文芸ロマンのヒロインにふさわしい佇まいを示している。
そして続く『片思い世界』では、一転して舞台を現代に移し、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)と共同生活を送る長女的存在・美咲を演じる。泰子役で見せた大正ロマンの余韻に包まれた世界から、現実の若者のリアリティへと振り幅を広げた。過酷な運命に翻弄されながらも、前を向いて歩み続ける“柔らかさ”と“芯の強さ”を同居させた芝居で、観客にヒロインの普遍的イメージを鮮やかに提示する。
『遠い山なみの光』では、戦後を生きる女性・悦子役で、カズオ・イシグロ原作の重厚な文芸世界に挑戦。感情を大きく爆発させるのではなく、内に秘めた痛みや後悔を繊細な間合いや声のトーンでにじませていく。抑制の演技に徹することで、観客に余白を託す表現を獲得しているのだ。
さらに『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)では、かつての代表作である千早を再び演じ、新旧キャストが入り混じる物語の中でも、変わらぬ存在感を発揮。青春の象徴としての瑞々しさはそのままに、大人になった今だからこそにじむ経験の重みをまとい、シリーズ全体をやさしく締めくくるような輝きを見せている。
迷いを抱えた大人の女性から、燃えるような恋に身を投じるヒロイン、日常のリアリティを背負った等身大の女性、そして青春の輝きを体現する存在まで、2025年の広瀬すずは、まさに八面六臂の活躍ぶり。そして、最新作『宝島』で彼女が見せるのは、その集大成ともいえる演技だ。