『チェンソーマン』はなぜジャンプ作品の中で異彩を放ったのか 欲望を解き放つ愛の形
デンジがカフェで働く少女・レゼと仲良くなり、夜の学校に忍び込んで探検した翌日に花火を見に行ってキスをするまでは、甘酸っぱい恋愛映画のど真ん中を行く王道展開となっている。だが、キスの最中にレゼがデンジの舌を噛み千切った後、爆弾の力を操るボムとしての正体を現し、血まみれのアクションホラーバトルに物語は突然切り替わる。
前半と後半で物語のトーンが全く違うものへと変わる唖然とする展開だが、この前半から後半への移行こそが『チェンソーマン』の本質だ。
アニメ映画では、上田麗奈の声が加わったことでレゼの実在感はより強まっており、漫画よりも色気のある話となっている。その分、デンジの痛みも観客に伝わりやすくなっているのだが、映画を観ながら少年にとって女性は、ちょっとしたことで女神にも悪魔にも変化する恐ろしい存在で、だから支配されないために戦うしかないんだよなぁと、思春期の頃に自分の中に渦巻いていた異性に対する歪んだ感情を思い出した。
フィクションの作り手の多くが社会的な正しさを志向し、物分かりが良くなっていく中で『チェンソーマン』が異彩を放っているのは、少年の中に渦巻いている暴力や性欲の衝動に対して作者が正直で、その欲望を解き放つことによって生まれるカタルシスを第一に考えているからだろう。
アニメスタッフもその衝動を大事にしており、だから『レゼ篇』の後半はデンジとレゼの悪魔的な暴力衝動が解放されていて、とても気持ちがいい。最終的に殺し合うしかないデンジとレゼの姿はとても悲しいが、悪魔の力をぶつけあう二人の姿はどこか楽しそうで、こういう形の愛もあるのかと感じた。
■公開情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
全国公開中
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(マキマ)、ファイルーズあい(パワー)、高橋花林(東山コベニ)、花江夏樹(ビーム)、内田夕夜(暴力の魔人)、内田真礼(天使の悪魔)、高橋英則(副隊長)、赤羽根健治(野茂)、乃村健次(謎の男)、喜多村英梨(台風の悪魔)、上田麗奈(レゼ)
原作:藤本タツキ『チェンソーマン』(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:𠮷原達矢
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
副監督:中園真登
サブキャラクターデザイン:山﨑爽太、駿
メインアニメーター:庄一
アクションディレクター:重次創太
悪魔デザイン:松浦力、押山清高
衣装デザイン:山本彩
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
カラースクリプト:りく
3DCG ディレクター:渡辺大貴、玉井真広
撮影監督:伊藤哲平
編集:吉武将人
音楽:牛尾憲輔
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」(Sony Music Labels Inc.)
エンディングテーマ:米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」(Sony Music Labels Inc.)
©2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト ©藤本タツキ/集英社
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式X(旧Twitter):@CHAINSAWMAN_PR