三谷幸喜×神木隆之介『もしがく』対談 「こんな俳優さんに出会ったのは初めて」

 三谷幸喜が脚本を手がける連続ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』が、10月1日よりフジテレビ系水10枠で放送される。主演は菅田将暉、共演に二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波を迎える注目作だ。物語の舞台は1984年の渋谷。バブル前夜の熱気あふれる街を背景に、夢や挫折を抱えながらも全力で生きる若者たちの青春群像が描かれる。

 本作は三谷の青春時代の思い出の一つを題材にした完全オリジナルストーリーで、神木は“三谷青年”をモチーフにした新人放送作家・蓬莱省吾役を務める。三谷作品に初参加となる神木が、この役をどう受け止めたのか。そして三谷自身が自らを投影した人物を登場させた狙い、さらに令和の今、1984年を描く意味を2人に聞いた。

三谷幸喜をモチーフにした役は「嬉しさと同時に緊張感も」

ーー三谷さんがフジテレビで連続ドラマを手がけるのは25年ぶりになります。まずは率直なお気持ちをお聞かせください。

三谷幸喜(以下、三谷):最後に民放のゴールデンで連ドラをやってから、もう25年。その間、大河ドラマやスペシャルドラマなどをやらせていただいたのですが、ここまで空いたのは自分でも意図したわけではなくて、気づけば25年経っていた、という感じですね。

ーー今回、この作品を手がけることになった経緯を教えてください。

三谷:25年前にご一緒していたプロデューサーやディレクターの方々は、もう偉い立場になってしまっていて(笑)。映画の現場でもそうですが、スタッフはどんどん若くなり、僕が最年長ということも増えてきました。若いプロデューサーさんたちにとっては、僕に声をかけにくいところもあったと思うんです。そんな中、勇気あるフジテレビの若いプロデューサーさんが声をかけてくれました。そこで「今の僕にしか書けないものは何か」と考えたんです。たとえば、僕の青春時代である1980年代の東京を描くことならできるかもしれない。そう考えて、この企画にたどり着きました。

ーー神木さんは、三谷さんをモチーフにした役を演じるにあたって、どのような気持ちやプレッシャーがありましたか?

神木隆之介(以下、神木):今回のお話をいただいたときは、嬉しさと同時に緊張感もありました。三谷さんとご一緒するのが初めてだったので、動きや喋り方をどの程度役に反映させるべきか、一生懸命考えました。僕が演じるのは蓬莱省吾という役ですが、名前は違っても三谷さんの要素が入っている。蓬莱として生きる部分と、そこにある三谷さんらしさをどのように表現するか。やってみないとわからないところも多くて。最初にお話を伺ったときは、本当に悩みましたね。

三谷:僕のことは以前から知っていたんですか?

神木:もちろんです! 僕が『らんまん』という朝ドラに出演させていただいた頃、NHKのスタジオで三谷さんをお見かけしたことがあって。そのとき遠目に「本物の三谷幸喜だ!」と盛り上がっていました(笑)。

三谷:僕も同じですよ。「神木くんが大きくなってる!」って(笑)。

神木:(三谷さんは)番宣や朝の番組のコーナーに出ている印象が強かったです。

三谷:それって、作品自体は観てない?

神木:いえいえ、僕は『ザ・マジックアワー』が大好きです。テレビで拝見していた三谷さんは、博学で何でも知っている方というイメージでした。初めてお会いしたときは、話についていけるのか、理解できるのか不安でとても緊張しました。

三谷:若い俳優さんと会うと、皆さん少し誤解した印象を持っているなと感じます。過大評価されているような空気があって、正直居心地が悪いんです(笑)。

神木:でもやっぱり、「三谷幸喜作品」と銘打たれて作品が世に出ているのが印象的です。皆さん自然と「すごい方なんだ」というイメージがついてしまうと思います。

三谷:本当に、やりづらい世の中になりましたよ(笑)。

『もしがく』久部三成×蓬莱省吾は、勝新太郎×田村高廣のイメージ

ーー主人公・久部三成を演じる菅田将暉さんの印象について教えてください。

三谷:誤解されがちなのですが、菅田さん本人(の性格)に合わせてキャラクターを書いたわけではありません。僕が直接お会いしたのは、昔日本アカデミー賞の授賞式でトイレに並んだときくらいで、『鎌倉殿の13人』(NHK総合)のときも一度もお会いしていなかったんです。実際にしっかり話すようになったのは、この作品が始まってからですね。でも、菅田さんが演じた源義経を見たときに「もっと複雑な役を演じるところを見てみたい」という気持ちが膨らみました。単純に“いい人”で片付けられる存在ではなく、憎まれる役や嫌われる役もできる。そんな幅広いキャラクターを演じられる人だと思って、今回の久部という役が生まれました。

ーー久部と蓬莱は、劇中でどのような関係性になっていくのでしょうか?

神木:基本的に久部さんは僕の話を全然聞いてくれないんです(笑)。蓬莱にとって久部は初めて出会うタイプ。強引だけど、新しい場所へ連れていってくれるんじゃないかという期待があるからついていくんです。でも暴走する一面もあるので、どう距離を保つのかは常に考えながら演じています。やっぱり「本当に人の話を聞いてないな」と思うことは多いですね(笑)。

ーー演じる中で、菅田さんの新たな魅力を感じたことはありますか?

神木:あります。100%の力を出し切る菅田さんを初めて見ました。普段から明るくて面白い人ですが、今回の久部は、一つひとつのセリフを全力でぶつけてくる。久部としても、そして現場でも、僕ら全員を引っ張ってくれる大きな存在です。

三谷:舞台は1984年。あの時代はとにかく熱くてパワフルでした。その色を一身に背負っているのが久部であり、それを体現しているのが菅田さん。その熱量がドラマ全体を引っ張っていると感じます。その横で、すごくクールに客観的に見ているのが蓬莱。この2人の関係は、僕の中では勝新太郎さんと田村高廣さんのコンビのようなイメージですね。

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