『べらぼう』岡山天音の恋川春町は最高だった 令和のSNS文化を思わせる“正しさ”の暴走

良い政治を「凧あげ」に例えて説いた定信の著書『鸚鵡言』は、その「凧あげ」の部分だけに注目されて「凧をあげれば国が治まる」などと広まってしまう。それは本質的な部分は伝わらず、一部分の発言や映像を切り取って拡散されてしまう歯がゆさそのものだ。
そして、発信力を持つ蔦重や戯作者たちは時代を牽引するインフルエンサーのようでもある。そんな影響力のある人物から、心血を注いで取り組んでいる自分の仕事ぶりをバカにされたと感じたら……。そして、治済のように自らの利益のために煽る人が現れたら……。現実のSNSでも、熱心なファンが一転してアンチへと変わってしまう例は枚挙にいとまがない。定信の心情を思うと、現代を生きる私たちにもどこか身近に響いてくる。

しかも、春町の死に様がまた見事過ぎたのだ。武士・倉橋格としては腹を切り、戯作者・恋川春町としては「豆腐の角に頭をぶつけて死んだ」というオチをつける。死してなお世を笑わせるべきと考えた、その一貫した真面目さに、むしろ武士としての志を感じてしまうのは、それこそ定信にとって大きな皮肉となった。

定信の咆哮は、自らの政策で誰よりも認めていた唯一無二の才能を殺してしまったことへの後悔か。それとも、「たわければ腹を切らねまばらぬ世というのは一体誰を幸せにするのか」と蔦重から痛烈に批判されたことへのさらなる怒りか。あるいは、将軍にもなれず、老中となってもなお、何一つ思い通りにいかない自分の運命への恨みか。

歴史に名を残す「偉人」と呼ばれる人たちも、私たちと変わらず傷つく心があったこと。定信の咆哮から改めてその痛みを感じることができた。同時に、その叫びは同じ時代を生きる人たちのもとにも届かないという苦悩も。
人々が誠実に真面目に生きなければ社会は成り立たない。しかし、愚かさやユーモアを認め合う余白こそが、人と人とをつなぐ救いとなる。「正しさ」で締め付ける定信と、「楽しさ」で抗う蔦重。その言論と表現の自由を通じて戦う様は、そのまま現代の私たちにあるべき社会のバランスを問うものになっていきそうだ。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK





















