『ポケモンコンシェルジュ』新エピソードに表れた変化 “上昇の物語”から“充足の物語”へ

 第7話「先輩になりました?」で、ハルは先輩として、ある新人の教育係を任される。新人ながら人生経験豊富で威厳ある彼に圧倒され、失敗続きのハルは自信が揺らぐことに。それでも彼は、「あんなに本気でポケモンにぶつかるとは」と、ハルのことを評価していた。第5話同様、ハルの持ち前の個性や、これまでの積み上げは、しっかりと身を結んでいることが示される。

 そして第8話「今、私はここにいます」では、元恋人のケント(町田啓太)が登場する。彼は出世を果たしたものの、日々の緊張に疲れ果て、かつてのハルと同じように消耗していた。その姿と、現在のハルを対比することで、本エピソードでは、ハルの成長と達成を明示するのだ。

 ハルが仲間の働きぶりを、「好きだから一生懸命になれる」と評価したように、ハルもまた自分の共感力や感性が活かせる仕事だったからこそ、同じように忙しい日々にあっても、いきいき仕事できていることが理解できる。都会と田舎という対立軸というよりは、自分に合った場所で働ける日々が幸福感や健やかさに繋がることを表現している。

 日本経済が上向いていた時代、多くの人々に共通していたのが、豊かさへの希求だった。そのために市民は、より多く稼ぐための上昇志向を必要としていた。しかし、現在までに経済が下降していく過程で、各人の目標が下方修正されることはあっても、根本的な価値観を代替するものがなかったといえる。いや、なかったというより、意図的に目を背けてきたのではないのか。そのことで、多くの人々が理想とギャップのなかで苦しむことになったのかもしれない。

 この4話を通じて浮かび上がってくるのは、そんな競争社会の上昇の物語から、“充足の物語”への転換だ。かつての日本社会では、出世して上へ進むことが、一つの“大きな物語”として共有されてきた。本シリーズが描くのは、そこから逸れていく展開だ。昇進や競争を前提にせずとも、人は仲間と支え合い、健やかに働き、幸せを感じる考えにシフトできる。この作品は、そういった価値観を、あたたかみのある質感や、ウインディやトドグラー、コダックたちの姿、のんをはじめとするキャストの演技によって示唆しているのだ。

 本シリーズ『ポケモンコンシェルジュ』第5〜8話は、新米の奮闘を描いた前半を引き継ぎつつ、ハルが自分の選んだ居場所で満たされ、充実している姿を描き出した。そこには“逃げ場”ではなく、“選んだ場所”としての島がある。もちろん、現実には存在しない島だ。しかし、それは大きな物語に疲れた現代の視聴者にとって、現実を変えるきっかけの象徴になり得るのかもしれない。

■配信情報
Netflixシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』
Netflixにて世界独占配信中
©︎2025 Pokemon. ©︎1995-2025 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

関連記事