『あんぱん』戸田菜穂×松嶋菜々子にみる母の在り方 『やさしいライオン』に込められた思い

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第110話で描かれるのは、柳井嵩(北村匠海)のモデル・やなせたかしにとって初の絵本作品、さらには初のアニメ映画として高く評価されることとなる『やさしいライオン』。後の『アンパンマン』にも繋がる、嵩にとって重要な一作だ。
のぶ(今田美桜)と嵩は仕事部屋を兼ねたマンションへと引っ越しをして、羽多子(江口のりこ)との同居生活を始めた。そこで羽多子が出前の注文のように引き受けてしまうのが、ラジオドラマの脚本の大至急の依頼だ。締め切りは翌朝。以前に書いていた短いラジオドラマをアレンジすることを嵩は思いつく。

そのタイトルが『やさしいライオン』。母親を失った赤ちゃんライオンのブルブルと、子どもを失った母犬・ムクムクの物語。ムクムクに育てられたブルブルは、大きくなって動物園に売られ、サーカス団に入り、やがてムクムクと一緒に過ごした日々を忘れてしまう。ある日、ブルブルはムクムクが歌う懐かしい子守歌を耳にして、抑えつけられていた気持ちが爆発。檻を飛び出し街へ駆け出すが、警官隊に撃たれ、ブルブルは死んでしまう――。
嵩は育ての母である千代子(戸田菜穂)と、実の母である登美子(松嶋菜々子)が聴いたらどう思うかが気がかりだった。のぶは、そんな嵩の手を握り、「書きたいと思うなら書いた方がえいで」と優しく背中を押す。

夜のラジオに流れる『やさしいライオン』。それぞれの場所で千代子と登美子はじっと放送を聴いていた。涙を流し「ブルブル……」と物語にのめり込む千代子、ラストの結末に微かな笑みを浮かべる登美子の姿は安堵した、温かな表情に見える。嵩は残酷な結末を、ブルブルがムクムクを背中に乗せて空に飛び立っていくというメルヘンなラストに書き直していた。詩集『愛する歌』を出版することになる第107話で、八木(妻夫木聡)は嵩の詩を読んで「メルヘン」と感想を口にしていたが、やなせたかしが編集長を務め創刊された月刊誌 『詩とメルヘン』が象徴するように、嵩のその抒情的な世界観が彼の一つの持ち味として知れ渡っていくことになる。その才能に惹かれ、後に再会することになるのが、『どろろ』の執筆の手を止め、『やさしいライオン』の放送を聴いていた手嶌治虫(眞栄田郷敦)である。

『あんぱん』のオンエアも残り1カ月。第110話で引っ越したマンションの仕事部屋は、第1話冒頭で登場した部屋と同じ場所だ。しかし、第1話と第110話で大きく違うのは、のぶと嵩の老け具合。『アンパンマン』誕生を残りの放送のどこに持ってくるのかが気になるところだが、その瞬間はもう少し先のようだ。
#朝ドラあんぱん 第1話
ご視聴ありがとうございました✨@asadora_nhk #今田美桜 pic.twitter.com/4hwgoMUS8e— 今田美桜 Staff (@imanomiofficial) March 30, 2025
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















