『こんばんは、朝山家です。』早くもロスの予感 “普通”ができずに苦しむ“晴太”嶋田鉄太

振り返れば、学生生活というのはなかなか過酷だ。ようやくクラスになじんできたところでクラス替えがあり、仲の良い友人とは離ればなれに。しかも、そのクラスを自分で選ぶことはできない。嫌いな人と同じクラスになるかもしれないし、苦手な教師が担任になる可能性だって大いにある。
ひとりぼっちでいたくない人は友人を作るが、ひとりが好きな人は教師にも親にも「大丈夫か?」と心配され、時には問題児のような扱いを受ける。よく、「学生時代に戻りたい」と思うことがあるけれど、『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)を観ていると、「大人のほうが生きやすいかもな」と思う瞬間が多々ある。
多様性という言葉が広く使われるようになってから、かなりの年月が経過した。しかし、学校という檻のなかでは、みんなの“普通”ができない子は、弾き出されてしまう。自閉スペクトラム症の診断を受けている朝山家の長男・晴太(嶋田鉄太)も、そうだ。
晴太は、同級生たちのように教室でじっとしていることができず、嫌なことがあればすぐに逃げ出す。そりゃ、誰だって教室でつまらない授業を聞いているより、廊下で寝そべりながら好きな本を読んでいたいものだ。蝶子(渡邉心結)のように、彼のことを「甘えている」「怠け者」と感じる人がいても仕方がない。
でも、“普通”ができない本人が一番苦しんでいるのを忘れてはいけない。晴太にとっての学校生活は、サイズの合わない靴を履いて全力疾走させられているようなものだ。走りづらい上に、靴ずれまでできる。それなのに、周囲はその靴がぴったりハマっているので、上手く走れる。ぴったりサイズの靴を履いていたって、時には疲れたり休みたくなることもあるだろう。でも、サイズ違いの靴を履いて走らなければならないしんどさとはまったく別ものだ。
また、晴太は同級生と友好的な関係を築けないので、修学旅行の班決めでもひとりぼっちになってしまう。こんな状況じゃ、「修学旅行なんていけない!」と思ってしまうのも無理はない。
朝子(中村アン)の母親は、晴太のことを「発達ナントカなんて変な病名つけちゃって。ちょっと変わった子なんてたくさんいるじゃない。個性よ、そんなの」と言っていた。たしかに、わたしたちの時代は、教室でじっとしていられずに走り回っている子や、先生の足にしがみついて動かない子が、同じクラスのなかにいた。おそらく今だったら、支援学級などに行き、特性に応じた教育を受けているはずだ。
小学生の息子を持つ友人に聞くと、「発達障がいの特性が顕在化しやすくなってから、“個性的な子”と言われていたものが発達障がいと分類されるようになった」「だから、ちょっとでも“普通”からはみ出した子たちは、すぐに支援が必要という枠に入れられるようになる」と言っていた。
もちろん、そのおかげで適切なサポートが受けられるようになったり、周囲の理解が進んだりするメリットもある。ただ、その一方で、少しでも“普通”の枠から飛び出したら、すぐに“特別”という箱に入れられてしまう矛盾もたしかに存在している。本当に必要なのは、ラベルを貼ること自体ではなく、その子が安心して過ごせる環境をどう作っていくのかなんだと思う。朝子の母の言葉は、乱暴に聞こえるかもしれないが、“個性”として受け止める感覚もまた支援と同じくらい大事なのかもしれない――そんなことを第5話を観ながら考えた。
わたしは、「縄文時代に生まれたかったよ、僕は」とつぶやいていた晴太が怠けているとは思わない。彼は、サイズの合わない靴を履きながら、全力で走ろうとしているのだ。だからこそ、晴太のそばにはそれを分かってくれる人が必要なのだと思う。ペースを無理に合わさせるのではなく、その靴が合わないことを理解し、時には靴紐をそっと緩めてくれる人。晴太にとって、中野(松尾諭)はまさにそんな存在なのだろう。
親にも話せない本音を打ち明けられる他人。そして、中野は「言わないで」と言われたことを、絶対にバラしたりしない。親以外のよりどころがあることは、子どもだけでなく、親の心も救ってくれる。すべてを自分が背負わなくていいと思うだけで、親の肩の力はふっと抜ける。そうして生まれた余白が、親子の距離をちょうどいい場所に保ってくれるのだ。
賢太(小澤征悦)の監督する映画『夜山家の人々』の撮影がスタートして、いつもに増してバタバタしている朝山家。適当だけど憎めない賢太と、朝子のキレのいいツッコミを「永遠に見ていたい」と思っている自分がいる。すでに、ロスになりそうな予感……!
足立紳が自身の連載日記『後ろ向きで進む』をベースに執筆したホームドラマ。“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦が、罵倒と叱責、ときどき愛で、家族の難題を切り抜けていく。
■放送情報
『こんばんは、朝山家です。』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:15〜放送
TVerにて、放送終了後見逃し配信
U-NEXT、Prime Videoにて全話配信
出演:中村アン、小澤征悦、さとうほなみ、小島健(Aぇ! group)影山優佳、渡邉心結、嶋田鉄太、土佐和成、佐野弘樹、竹財輝之助、河井青葉、丸山智己、宇野祥平、松尾諭
脚本:足立紳
原案:足立紳・足立晃子『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ~ままならない人生を後ろ向きで進む~』(辰巳出版)
演出:足立紳、小沼雄一、安村栄美
チーフプロデューサー:山崎宏太
プロデューサー:寺川真未、宮本日奈美、加藤伸崇(S・D・P)、坪ノ内俊也(R.I.S Enterprise)
協力プロデューサー:足立晃子
ビジュアル撮影:浅田政志
タイトルロゴ:寺内暁
制作協力:S・D・P
制作著作:ABCテレビ
©ABCテレビ
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