『こんばんは、朝山家です。』朝山家の“ズレ”が明確に 小澤征悦演じる賢太がなぜか憎めない

「わたしは平気ですけど、“わたしは平気”って意識が平気じゃない人を苦しめるので」
『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第4話。賢太(小澤征悦)が手掛ける映画『夜山家の人々』のスタッフ・小向(工藤遥)の言葉に、脚本家・足立紳が伝えたいメッセージが詰まっている気がした。
“普通”の定義をするのは難しいが、今回は「学校を楽しめること」「友達と仲良くできること」を“普通”だと仮定してみる。となると、朝山家の子どもたちはそのレールから逸れているとも言えるだろう。
正直、修学旅行を心待ちにしていたわたしからしたら、「絶対に修学旅行に行きたくない!」と駄々をこねる晴太(嶋田鉄太)には共感しづらいし、友達の前でいつも不機嫌な態度を取る蝶子(渡邉心結)を見れば、「もっと上手くやればいいのに」と思う。
ただ、“分からない”のと、“理解をしようとしない”のはまったく違う。たとえば、朝子(中村アン)は子どもたちの気持ちが完全には分からなくても、理解しようと努めている。晴太が修学旅行の班決めが嫌で学校を飛び出した時も、賢太は「行きゃ楽しいと思うけどな」と言っていたが、朝子は「晴太にとっては楽しくないんだよ」と晴太の視点に立っていた。
「俺なんか、部活も修学旅行も大好きだったけどな~」と呑気に語る賢太は、“普通”のレールを逸れることなく歩んできた人なのだろう。だから、「俺は平気なのに、なんで?」と子どもたちの気持ちを理解することができない。その結果、蝶子が「野球は好きだけど、友だちと上手くやっていけないから辞めたい」としんどさを吐露した時、「どこに行ったって嫌なやつはいるよ。そのたびに辞めてたら、行くとこなくなるぞ?」なんて追い詰めるような発言をしてしまうのだ。
そんな賢太にとっての“普通”の押し付けが、蝶子や晴太を余計に苦しめているのだと思う。最初のころは、彼の傲慢さや身勝手さがそこまではっきり描かれていなかったから、「朝子、イライラしすぎじゃない?」とむしろ賢太を気の毒に感じていたが、回を重ねるごとに彼女の気持ちが分かってきた。
人間、パッと見ただけでは本質を理解することはできない。賢太と朝子が並んでいたら、10人中9人は「賢太は朗らかで、朝子は気が強い」と言うだろう。しかし、内情を知れば知るほど、その印象は逆転する。
朝子は、共感能力が高く、人の気持ちに寄り添いすぎるところがある。これは、子どもたちに限らない。たとえば、新人俳優がオーディションを受けなくなってしまった時、賢太は「やる気がない」と言っていたが、朝子は「受けても受けても受からないから、嫌になっちゃったんじゃない?」と、その人の気持ちを想像した。
人が言葉にしない本音を想像し、寄り添おうとするのが朝子の在り方だ。だからこそ、彼女は子どもたちの“平気じゃない”にもいち早く気づく。晴太が修学旅行を嫌がる理由も、蝶子が友達と上手くやれずに野球を辞めたいと思う苦しさも、朝子は完全に理解できなくても想像しようとする。
一方、賢太は自分が歩んできた“普通”のレールから物事を見てしまう。学校も部活も修学旅行も楽しいもの。オーディションだって、努力をすれば報われるもの。努力をできない人間は怠けている──その価値観を疑わないから、苦しんでいる人の気持ちが分からない。それでいて、本人は「自分は朗らかで優しい人間だ」と思っているからタチが悪い。
そう考えると、賢太はかなり最低な人間のように感じるのだが、なぜか憎めない。悔しいけれど、ちょっぴり「かわいいな」と思ってしまうこともある。自分の価値観が絶対だと信じて疑わない不器用さ、そしてそれを周囲に押し付けてしまう幼さが、滑稽でありながらも愛らしく映るのだ。これは、小澤征悦が醸し出す柔らかい雰囲気や、ふとした時の優しい表情の力によるところが大きい。
第4話は、賢太の「子どもたちに“普通”であってほしい」という願いと、朝子の「“普通”じゃないところにも寄り添いたい」という気持ちが交錯した回だった。その対比が鮮明になったことで、朝山家のなかにある“ズレ”がより明確になった気がする。わたし自身も、誰かの“平気じゃない”を見逃していないだろうか――。そんな問いを胸に抱えながら、次週の放送を待ちたいと思う。
足立紳が自身の連載日記『後ろ向きで進む』をベースに執筆したホームドラマ。“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦が、罵倒と叱責、ときどき愛で、家族の難題を切り抜けていく。
■放送情報
『こんばんは、朝山家です。』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:15〜放送
TVerにて、放送終了後見逃し配信
U-NEXT、Prime Videoにて全話配信
出演:中村アン、小澤征悦、さとうほなみ、小島健(Aぇ! group)影山優佳、渡邉心結、嶋田鉄太、土佐和成、佐野弘樹、竹財輝之助、河井青葉、丸山智己、宇野祥平、松尾諭
脚本:足立紳
原案:足立紳・足立晃子『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ~ままならない人生を後ろ向きで進む~』(辰巳出版)
演出:足立紳、小沼雄一、安村栄美
チーフプロデューサー:山崎宏太
プロデューサー:寺川真未、宮本日奈美、加藤伸崇(S・D・P)、坪ノ内俊也(R.I.S Enterprise)
協力プロデューサー:足立晃子
ビジュアル撮影:浅田政志
タイトルロゴ:寺内暁
制作協力:S・D・P
制作著作:ABCテレビ
©ABCテレビ
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/asayamake/
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