『あんぱん』八木の“伝説の経営者”モデル説が濃厚に 改めて問われる“逆転しない正義”

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第96話は、のぶ(今田美桜)に人生の転機が迫っていることを予感させた。
百貨店を退職し、漫画一本で生計を立てていくことになった嵩(北村匠海)。のぶは有名な漫画家になってほしいという願いを込め、「嵩さん」と呼ぶようになる。経済的には厳しくなるかもしれないが、嵩がようやく漫画家の道に踏み出せたことは妻でありファンでもあるのぶにとって大きな喜びだった。

一方で、自分の仕事に関しては、決して順調とは言えない日々を送っている。ある日、独断で鉄子(戸田恵子)と児童福祉施設員の面談を設定したのぶ。あとで叱られることが分かっていても、一人でも多くの子供を救いたいという施設員の訴えを鉄子に聞いてほしかった。

しかし、鉄子のお昼ご飯の時間を確保しようとする、もう一人の秘書・中山(おしの沙羅)に勝手に面談を切り上げられてしまう。さらには施設員の話を涙ながらに聞いていた鉄子に、「次の選挙のためですか?」と素直に聞く中山。少々失礼な気もするが、少なくとも彼女からすると鉄子は“そういう人”に見えているということだ。権力には目もくれず、民の幸せのためにガード下を走り回っていた頃の面影は薄れつつある。それでも、のぶは鉄子の下で秘書を続けたかった。その理由を鉄子に問われたのぶは「探しゆうもんがあるがです」と答える。

その頃、「独創漫画派」という漫画家集団に所属し、そこで割り振られた仕事を日々こなしていた嵩に大きなチャンスが訪れる。大物漫画家が月刊誌連載中に行方不明となり、その穴埋めを任されたのだ。そこで嵩は、百貨店時代から描いているキャラクターを用いた漫画『メイ犬BON』を完成させた。これは実際にやなせたかしが描いていた漫画で、BONは『アンパンマン』に登場する名犬チーズの前身とも言われている。
仲間たちには好評だったが、漫画家が見つかったことでボツに。再び振り出しに戻り、意気消沈する嵩を八木(妻夫木聡)が「大衆なんかに媚びず、お前らしいものを描けばいいんだよ」と励ます。この頃、八木は「九州コットンセンター」という雇われ店長を任されており、裏にある孤児院の子供たちに商品作りを手伝ってもらっていた。なお、以前から視聴者の間では八木のモデルをサンリオの創業者・辻信太郎とする声が上がっているが、サンリオの前身は「山梨シルクセンター」。店名の共通点からしても、“八木=辻信太郎”説はほぼ確定したと言っても過言ではない。

そんな八木の店で、嵩は鉄子と再会。鉄子は嵩に、のぶが探しているものは何かを尋ねる。嵩はのぶが時代の空気に流されて、子供たちを戦争へと導いてしまったことに負い目を感じていること、ゆえに何があっても逆転しない正義を探していることを伝えるが、鉄子はそんなものが見つかるとは到底思えなかった。印象的だったのは、「あんたたち政治家はコロコロ逆転する正義ばっかり説いてるからな」と嫌味を言われた鉄子の痛いところをつかれたような表情だ。
終戦直後は机上の空論ではなく、実際に困っている人たちのもとに足を運び、一つひとつの課題を解決しようとしていた鉄子。ところが、女性議員の立場が弱まり始めると、今度は権力におもねるようになる。「民の声を政治の世界に届けるためには、それ相応の地位が必要」という新たな“正義”に、「目の前に困っている人がいたら、なりふり構わず助けるべき」という鉄子がかつて掲げていた“正義”は取って代わられたのだ。そんな自分のもとで、逆転しない正義を探そうとしているのぶに鉄子はどのような言葉をかけるのだろうか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















