『あんぱん』“メイコ”原菜乃華が夢見た歌手の道 史実における『のど自慢』の歴史を辿る

『あんぱん』にも登場、『のど自慢』の歴史

 『のど自慢』の人気はNHKだけにとどまらず、類似番組の誕生や、各地へと波及していく。『のど自慢』という言葉自体が、いわば歌のコンクールを意味する日本語として定着していったことからも、番組が大衆文化に与えた影響の深さがうかがえる。そこには、“誰もが参加できる娯楽”という新しい時代の価値観があった。

 番組はその後も進化を重ねていき、1953年にテレビ放送を開始すると、歌声だけでなく、出場者の表情や動きまでもが映し出されるようになった。映像が加わることで、“その人がその場で歌っている”という実感がより濃密になり、視聴者の没入度は飛躍的に高まった。そして1970年には、番組名を現在の『NHKのど自慢』に改め、従来のコンクール形式を廃止。出場者の人生や背景にフォーカスする人間ドキュメント的要素を前面に押し出す構成へと変貌を遂げていった。

 この転換によって、番組は単なる歌のうまさを競う場ではなくなった。歌を通して語られる家族との別れ、人生の節目、新たな挑戦といった物語がステージの主役となったことで、視聴者との共感はより深く、濃くなっていった。

 令和の時代になっても、『NHKのど自慢』は生放送、そして公開収録というスタイルを守り続けている。配信サービス「NHKプラス」にも対応しつつ、伝統と現代的な感覚を保ったまま、今も毎週、全国各地で“夢の舞台”を開いている。2022年には、のど自慢出場をきっかけにデビューを果たした演歌歌手・原田波人のように、現代でもその舞台を夢の第一歩と捉える人々は後を絶たない。

 『あんぱん』のメイコが、いつか鐘の音を聞く日が来るのかはわからない。ただ一つ確かなのは、彼女がその舞台に立とうとしたこと自体が、戦後から続く『のど自慢』という番組の本質と重なっているということだ。誰もが何かを夢見ていい。声を上げていい。たとえ結果がどうであれ、歌い終えた後に響く「カーン、ご苦労さま」の音は、努力したすべての人を優しく迎えてくれる。

 『のど自慢』が奏でてきたのは、変わらぬ日常に寄り添う鐘の響きだ。戦後から現在へとつながるこの番組の歴史は、まさに“歌い継がれる国民の夢”の記録でもある。

参照
※1. https://www.steranet.jp/articles/-/1677
※2. https://hue.repo.nii.ac.jp/record/654/files/kenkyu1980320305.pdf
※3. https://www2.nhk.or.jp/archives/articles/?id=C0010424

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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