『鬼滅の刃』善逸はなぜ“闇堕ち”しなかったのか？　兄弟子・獪岳との決定的な違い

　獪岳も生まれは孤児で、鬼殺隊に入る前の悲鳴嶼行冥の寺で同じ境遇の子どもたちと共に暮らしていた。しかし寺のお金を盗んだため、ほかの子どもたちに追い出されることに。運悪くそこで鬼と遭遇し、自分の命を守るために寺にいる人々を差し出した。

　その後は慈悟郎の弟子となり、「雷の呼吸」を習得したうえで鬼殺隊に入るが、今度は上弦の鬼・黒死牟と出会ってしまう。そして命乞いをして無惨の血を分けてもらい、鬼の仲間入りを果たすのだった。

　獪岳はつねに他人に認められることを渇望していたが、どの集団に入っても満足することができず、“自分は正しく評価されていない”という劣等感を抱き続けてきた。最終的に鬼になったのは、そうした心の弱さに付け込まれた結果と言えるだろう。

　ではなぜ善逸は、同じような境遇にありながら闇堕ちせずに済んだのだろうか。結論から言えば、それは善逸にエゴイズムが欠けていたからだと思われる。

　獪岳は最期まで善逸が慈悟郎に優遇されていたのではないかと疑い、嫉妬に狂っていたが、そこで戦場に駆け付けた愈史郎から「欲しがるばかり」の人生では何も得られないと痛烈な皮肉を浴びる。実際に獪岳はつねに価値判断の中心が自分にあり、他人が何を与えてくれるのかだけを気にして生きてきたため、これ以上なく核心を突いた言葉ではないだろうか。

　それに対して善逸は、他人を救うために命まで懸けられる人間だった。たとえば物語序盤の「鼓屋敷編」では、伊之助が禰󠄀豆子の入った箱を攻撃しようとした際に、自分の身体がボロボロになるまで防御。このとき、善逸は禰󠄀豆子のことをまだ知らず、「鬼が入った箱」とだけ認識していた。それにもかかわらず、炭治郎が命より大切だと言っていたことを理由に箱を守ったのだ。ふだんは臆病な振る舞いが目立つ善逸だが、実は誰よりも芯の強いやさしさを秘めているのだと言える。

　また「遊郭編」では、上弦の陸・堕姫に対して、「耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ」と義憤をあらわにする場面が登場。そして「無限城編」では無念のうちに命を落とした慈悟郎のために覚醒し、恐怖すら克服して戦地に赴いている。こうした描写から分かるのは、善逸が自分のためではなく、他人のために怒る人間ということだ。

　自分のために力を振るう獪岳と、誰かのために戦う勇敢さをもった善逸。よく似た境遇を経験しながらも、まったく違う生き方を選んだ2人の姿には、『鬼滅の刃』ならではの深いメッセージ性を感じられる。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト：花江夏樹（竈門炭治郎役）、鬼頭明里（竈門禰󠄀豆子役）、下野紘（我妻善逸役）、松岡禎丞（嘴平伊之助役）、上田麗奈（栗花落カナヲ役）、岡本信彦（不死川玄弥役）、櫻井孝宏（冨岡義勇役）、小西克幸（宇髄天元役）、河西健吾（時透無一郎役）、早見沙織（胡蝶しのぶ役）、花澤香菜（甘露寺蜜璃役）、鈴村健一（伊黒小芭内役）、関智一（不死川実弥役）、杉田智和（悲鳴嶼行冥役）、石田彰（猗窩座役）
原作：吾峠呼世晴（集英社ジャンプ コミックス刊）
監督：外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督：松島晃
脚本制作：ufotable
サブキャラクターデザイン：佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン：小山将治
美術監督：矢中勝、樺澤侑里
美術監修：衛藤功二
撮影監督：寺尾優一
3D監督：西脇一樹
色彩設計：大前祐子
編集：神野学
音楽：梶浦由記、椎名豪
主題歌：Aimer「太陽が昇らない世界」（SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.）・LiSA「残酷な夜に輝け」 （SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.）
総監督：近藤光
アニメーション制作：ufotable
配給：東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴／集英社・アニプレックス・ufotable
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公式サイト：https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/
公式X（旧Twitter）：＠kimetsu_off