米津玄師楽曲はなぜ“オタク”にも愛されるのか? 圧倒的“作品理解度”で生まれる名主題歌
『シン・ウルトラマン』「M八七」
アニメではないが『シン・ウルトラマン』の「M八七」は、ウルトラマンの故郷(実際には明確にされていない)があるとされる“M78星雲”を指すタイトルが、まさしくといった感じだろう。当時の『ウルトラマン』企画段階において、何かのきっかけで台本印刷時に「M87」が「M78」になってしまいそのまま用語も変更されたという逸話を受け、楽曲タイトルも仮で考案していた「M78」から「M八七」に変更したという話も、作品への寄り添いを感じさせるエピソードだ。
オーケストレーションされたサウンドと力強いボーカルは実に壮大であるものの、リズムをハズして刻まれるリフが独特でどこか不穏な雰囲気を醸しだす。そもそも『シン・ウルトラマン』では、いわゆるヒーローとは異なるウルトラマン像が描かれたことが話題になったが、主題歌もそれと同様にいわゆるヒーロー作品の主題歌という従来の概念を覆した。M78星雲を想起させる〈遙か空の星〉と歌う冒頭の歌詞、〈その光〉というワードからは、光がウルトラマンの象徴であることや、ウルトラマンの故郷が光の国と呼ばれていることなどが思い浮かぶ。また、〈痛みを知るただ一人であれ〉というサビのフレーズは、メフィラス星人との対話によって苦悩・葛藤しながら、それでも人間を守るために戦うことを決意した、ウルトラマンの孤独な戦いへのエールだと言えるだろう。
『チェンソーマン』「KICK BACK」
そして9月に『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』の公開が予定されている、アニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマ「KICK BACK」は、編曲にアニメ『BANANA FISH』第1クールエンディングテーマ「Prayer X」をはじめ、『呪術廻戦』や『王様ランキング』の主題歌を手がけたKing Gnu/MILLENNIUM PARADEの常田大希が参加したことや、モーニング娘。の「そうだ! We're ALIVE」のフレーズがサンプリングされていることで知られている。
主人公・デンジが願うささやかな幸せ、マキマに拾われる前のいつも空腹だった自分など、目先の欲望に真っ先に手が伸びてしまう、向こう見ずでやさぐれたデンジのキャラクター性が歌詞とサウンドで見事に表現された楽曲だ。
ちなみに米津は『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』の主題歌も担当することが決まっている。
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』主題歌は米津玄師 ボムとの死闘を映した本予告も
9月19日に全国公開される劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌が米津玄師の「IRIS OUT」」(読み:アイリスアウト)に決…SF、アクション、ファンタジー、スポーツ、青春など手がける作品のジャンルはさまざまであるが、共通しているのは、作品全体を包み込む空気感を纏ったアレンジ、シーンが目の前に浮かぶ情景描写、そこに人間ドラマがあること。そして、話数を重ねるたび少しずつ歌詞が解読され、いくつもの点と点が線でつながり、最後には立ちこめていた霧がスッキリと晴れていくような感覚。原作と向き合った時間の分だけ高まる親和性。米津玄師が生み出すアニソンは最先端の上質なJ-POPであると同時に、アニメの世界とその視聴者である我々が生きる時間、その間を見事に取り持ってくれている。
これからも数多く生み出されていくであろう米津玄師のアニソン。そこに込められる米津の作品愛の深さと仕掛けの数々に、これからも翻弄されながら楽しんでいきたい。