『べらぼう』橋本愛と横浜流星の芝居は相性抜群 蔦重が女心に関しては“べらぼう”過ぎる

 そんな先人たちの歩みに敬意を払う意味でも、騙しや脅しで奪い取る忘八的なやり方ではなく、誠意を持って受け継ぎたいと考えたのも自然な流れ。とはいえ、公に「吉原者に市中の家屋敷を売ってはならない」というお触れもあったことから、なかなか一筋縄にはいかない。そして「任せろ」と息巻く忘八たちの勢いを止めることも難しい。となれば、双方にサプライズのタイミングで一勝負打って出ることに。

 ていの本にかける思いは、耕書堂の「書を持って世を耕し、この日の本をもっともっと豊かにする」という理念と同じ。ならば、ていの心を動かすのは、丸屋の思いを引き継ぐという覚悟を見せること。そう考えた蔦重は、ていに丸屋の暖簾を守ることを約束。「丸屋耕書堂」と連名にして一緒に本屋を続けてはどうかと提案するのだった。

 思ってもみなかった蔦重の提案に、ていの頑なだった視線が一瞬動くのを感じた。しかし、ていにはかつて熱心に言い寄られた男と結婚した途端、まんまと騙された過去もある。それも、運の悪いことに吉原で散々遊んで姿をくらませたのだ。憎き吉原、そして老舗・丸屋を追い込んだ蔦重の提案に乗るなど、魂を売るのと同じこと。

 にも関わらず、その蔦重から「いっそ夫婦になろう」なんて言葉が飛び出すものだから、ていの逆鱗に触れてしまった。せっかく本屋としてのていの思いを汲み取ったにも関わらず、女性としてのていの気持ちにはむしろ逆なでしてしまったということを、大黒屋の女将・りつ(安達祐実)に指摘されて初めて気づく始末。どうしてこう蔦重は、女心に関してはとんだ「べらぼう」になってしまうのか。それが歯がゆくも、愛らしいところでもあるのだが。

 しかし、万事休すとなった場面でも本当に縁がある話は動き出すもの。蔦重のもとには、丸屋を買った大坂の本屋・柏原屋(川畑泰史)が。その柏原屋が「うちからあの店買いまへんか?」という。この柏原屋も思い返せば鱗形屋の偽板騒動を訴えていた側の人物。変化する流れを受け入れることで、ツキが巡って活路が開かれる。それが蔦重ならではの「やり口」だ。

 一方、松前廣年(ひょうろく)の吉原通いを知った松前藩主の道廣(えなりかずき)が、誰袖と大文字屋(伊藤淳史)を訪ねてくる。人を的にして鉄砲を打って遊ぶような道廣のこと、廣年に琥珀の抜け荷をそそのかしたと知って、どんなひどい仕打ちをしに来たかと身構えたが、「わしとお前でやらぬか」と持ちかけてきた。まさに田沼意知(宮沢氷魚)の狙い通りの展開。これも幾度となく危ない橋を渡りながら目的を果たしてきた田沼意次(渡辺謙)親子の「やり口」といったところだ。

 それぞれの「やり口」にこそ、人としての生き様が滲む。史実ではここから大きな災害が世間を震撼させる。そんなタイミングで、蔦重の「やり口」がどのような影響を受けていくのか。願わくば、「みんながツキまくる世の中」を願う姿勢が変わらないでいてほしいものだ。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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