東アジアの隣国として、中国と日本には共通する歴史や文化的背景があり、日中友好は互いの存立に不可欠という考えは、一見すると平和思想のように見えるかもしれない。しかし、現実に、軍部政府は大東亜共栄圏を掲げてアジア諸国を侵略しており、建前どおりに受け取ることは危険である。

　それでも、そこに平和への願いを読み取ることはできるし、『あんぱん』の嵩も相互理解と融和のために紙芝居を描いたのだろう。兄弟のモチーフは、駆逐艦で戦地へ向かった千尋（中沢元紀）を想起させるし、ブラザーフッドに支えられた軍隊という組織の成り立ちと無関係ではない。争いをやめる兄弟の姿に、平和思想の原型を認めることは十分に可能だ。

　第57話終盤で、ドラマは昭和20年（1945年）に入る。日本の敗戦は決定的となり、嵩のいる駐屯地も攻撃を受けて孤立。元いた分隊で補給路を断たれた嵩たちは、食料を倹約する日々を送る。空腹との戦いがはじまった。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送／毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽：井筒昭雄
主題歌：RADWIMPS「賜物」
語り：林田理沙アナウンサー
制作統括：倉崎憲
プロデューサー：中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出：柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供＝NHK