『きさらぎ駅』『近畿地方』ネット発祥オカルトの映画化なぜ増加? カギは“当事者性”にあり
たとえば1つの理由としては、昔ながらの怪談にはない斬新さが挙げられる。というのもネットロアには「恐怖の正体を克明に描かない」「怪異の原因を明確にしない」といった特徴があるため、映画化した際、先を読めないスリリングな展開を作りやすいからだ。
またほとんどが現代を舞台にしており、平凡な一般人を語り部としていることも大きなポイント。誰もが「自分にも起こり得る出来事かもしれない」と共感し、恐怖を追体験できる物語なので、映画の素材としてもってこいだ。
だが、何より重要なのはそれが“本当の話”だという体裁だと思われる。ネットロアは特定の個人が創作した作品ではなく、「いつ誰が発表した」という情報も重要視されない。ネット上に集まった人々が共同で語り継いでいく物語、すなわち「伝承」であり、そのことによって独特のリアリティが生まれている。(※1)
また、「人々に語り継がれる」とは、つねにアップデートされるということでもあるので、時間が経っても比較的古びにくい。実際に「きさらぎ駅」は2004年1月が初出で20年以上前に生まれた話なのだが、今でも古いとは言われていない。むしろネットロアはSNSであらためて語りなおされたり、まとめ動画やゲームなどの新しい媒体に移ったりすることで、つねに体験が新鮮なものとして更新されている。
こうした構造を利用して、逆に新たなネットロアを構築しようとする試みも。たとえば『イシナガキクエを探しています』(テレビ東京系)や『飯沼一家に謝罪します』(テレビ東京系)などで知られるプロデューサー・大森時生のフェイクドキュメンタリー作品は、あえて作品単体で完結させず、物語の余白や謎めいた描写を残しているのが特徴。それによって多くの視聴者たちが“考察”という形で、能動的に作品に参加できる仕組みになっている。
年末に登場した謎の深夜番組『飯沼一家に謝罪します』 “儀式”ד謝罪”の名状し難い恐ろしさ
いま、さまざまな媒体で、とくに注目を浴びているのが「フェイクドキュメンタリー」形式のホラー作品だ。劇映画として翻案され大ヒットと…またホラー作家の梨と株式会社闇が仕掛けたWeb上のホラープロジェクト『つねにすでに』は、閲覧者を登場人物に組み込んでしまう斬新な手法で話題を呼んだ。
ネット怪談は伝承であるがゆえに、一度メディアミックスされたからといって消費されることはない。何度でも変奏して新たな展開、新たな物語が生み出され得る。今後はJホラー映画の新たなスタンダードとして、根付いていくのではないだろうか。
参照
※1. 廣田龍平『ネット怪談の民俗学』(早川書房)
■公開情報
『きさらぎ駅 Re:(きさらぎえき・り)』
全国公開中
出演:本田望結、恒松祐里
監督:永江二朗
配給:イオンエンターテイメント
企画・制作:キャンター
製作:「きさらぎ駅 Re:」製作委員会
©︎2025「きさらぎ駅 Re:」製作委員会
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