『リロ&スティッチ』とエルヴィス・プレスリーの意外な繋がり 作品を彩る楽曲たちを解説

 2002年に公開されたディズニー映画『リロ&スティッチ』が、6月6日の日本テレビ系『金曜ロードショー』にて本編ノーカットで放送される。本作はエイリアンと少女という異色の組み合わせで描かれる家族の物語だ。本作を語る上で欠かせないのが、「キング・オブ・ロックンロール」と称されるエルヴィス・プレスリーの存在である。

 物語の舞台はハワイ。スティッチという名の凶暴なエイリアン“試作品626号”と、孤独な少女リロとの出会いから始まるこの映画では、エルヴィスの楽曲が随所に使用されているのだ。それはBGMという以上に、シーンごとの感情を深く支え、キャラクターたちの心情を代弁している。

 いずれもシーンの感情を反映するかのように配置されており、リロやスティッチの内面とリンクする形で効果的に機能しているが、最も象徴的な場面のひとつが「Stuck On You」が使われたシーンだ。リロがスティッチを町に連れ出し、自分の日常を紹介するこの場面では、明るく陽気なこの曲が流れる。しかし〈I'm gonna stick like glue〉と歌うその歌詞は、まだスティッチがリロを利用している段階であることを考えると、どこか皮肉に響く。しかしながら、曲が持つポジティブなトーンは、やがて生まれる真の絆を予感させるものとなっている。そして、エルヴィスの代表曲でもある「Heartbreak Hotel」は、リロがひとり床に伏して落ち込む場面で使用される。失恋の歌として有名だが、この映画では「家族を失う痛み」と重ねるように用いられており、セリフがなくても、この楽曲が流れるだけでリロの孤独が伝わってくる。

 また、「(You're the) Devil in Disguise」は、スティッチがエルヴィスの格好をしてビーチでパフォーマンスするシーンで使用される。白いスパンコールのジャンプスーツを身にまとい、ウクレレを手にしたその姿は、まさにエルヴィスになりきったようでもあり、彼の新しい人生=模範市民への第一歩を象徴するようでもある。だが、やがてスティッチは演奏を見て集まった観客のカメラに過剰反応し、混乱を招いてしまうが、この場面のコメディ性の裏には、スティッチが“試作品626”として破壊衝動を刷り込まれた存在である点が浮き彫りになるシーンだ。

 〈You look like an angel〉〈You're the devil in disguise〉という歌詞が象徴するように、彼の愛らしい外見とは裏腹に、本来は破壊に特化したエイリアンであるというギャップは、リロが抱く「人は変われる」という信念と真正面からぶつかるものだ。リロはスティッチの中に善を見出そうとするが、スティッチはそれを演じることにすら困難を感じている。そんな痛々しさを、この曲はコミカルな皮肉を交えて浮かび上がらせている。

 個人的には「Hound Dog」の使用シーンが印象的だ。ジャンバ博士とプリークリーがスティッチを捕獲しようとするなかで、家の中は滅茶苦茶に。まるでカートゥーンのような混沌としたドタバタ劇のBGMとして、この1956年のロックンロール・アンセムが鳴り響く。エルヴィスによる「Hound Dog」は、もともとアフリカ系アメリカ人のブルース歌手であるビッグ・ママ・ソーントンが歌っていた曲を、エルヴィスが大胆にアレンジし、白人アーティストとして世に広めたという文化的な流れがある。つまり、音楽のスタイルやエネルギーが人種や文化の境界を越えて取り入れられた一例だ。映画の中でスティッチが暴れ回る様子と、この曲のドライブ感は驚くほど一致しており、彼の制御不能な本能が、音楽そのものと一体化しているかのように感じられる。

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