『いつか、ヒーロー』桐谷健太が“真のヒーロー”を体現 脚本家・林宏司が込めたメッセージ
自分にとっての“正義”とはなんだろうーー。人は、環境により価値観が大きく変わってしまうことがある。揺るぎない芯を持っていればいいのかもしれないが、大抵の人はそこまで強くない。自分がしていることは“悪”だと分かって行動している人よりも、“正義”に決まっていると信じている人のほうが、遥かに怖いのかもしれない。ついに迎えた『いつか、ヒーロー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)最終話。若王子(北村有起哉)に洗脳されている氷室(宮世琉弥)を見て、ゾワゾワが止まらなかった。
氷室の本来の姿が、赤山(桐谷健太)の教え子・渋谷勇気であることは、前回までの段階で明かされている。「希望の道」にいた頃の勇気は、正義感に溢れていて仲間想い。みんなを統率するリーダーシップも持っていた。しかし、若王子に洗脳されたことで、彼のなかの正義が少しずつ歪み出してしまった。若王子は、死滅回遊魚(=本来の生息地ではない海域に流され、死んでしまう魚のこと)のようになっている若者たちを、死なせてあげることが優しさだと氷室を洗脳していた。彼が、ターゲットを死に誘えなかった時は、「残酷だなぁ」「かわいそうじゃない。みんな冷たい水のなかで凍えてるんだよ?」と言い、罪悪感を植え付ける。
20年前、タイムカプセルのなかに入れた手紙に、勇気は「俺はヒーローになる」と綴っていた。当時の彼にとってのヒーローは、赤山のようにみんなを楽しませ、正しい道に誘導してくれる存在だったはず。でも、氷室になってからは、長いものに巻かれ、弱者を排除する非情な人間こそが、ヒーローだと思い込んでしまった。赤山や、かつて「希望の道」で一緒に暮らした仲間たちの力添えもあり、洗脳が解けたのは本当に良かった。でも、若王子が言うように、洗脳が解けたあとの彼の人生は、もっと地獄だと思う。本来、優しい性格で正義感にあふれていた勇気は、良心の呵責に苦しむことになるだろう。
ただ、野々村(泉澤祐希)も言っていたように、洗脳されていたからといって、他者を死に追い込んだ事実は変わらない。氷室に、「悪役から、真のヒーローになったブラックジャガーは、過去の自分をどう精算したんだ?」と聞かれた赤山が、「精算なんてできねえよ。それでも、前に向かって歩いていくんだよ」と返したのが、個人的にグッときた。どんなに愛おしい教え子だったとしても、「洗脳されていたんだから仕方ないよ」「お前は悪くない」と甘い言葉をかけることはしない。でも、彼の罪を一緒に背負っていく。赤山の大きな背中は、「真のヒーローとはこういう人のことを言うのだろうな」と思わせる力がある。