石橋静河は従来のヒロイン像を塗り替える? 『ブラッサム』は革新的な朝ドラになる予感

 2026年度後期NHK連続テレビ小説『ブラッサム』は、実在の作家・宇野千代をモデルとした葉野珠が主人公の物語。宇野は明治に生まれ、大正・昭和・平成と98歳まで生き抜いた。『ブラッサム』がどの時代まで描くかはまだ不明だが、宇野の代表作の一つである自伝的小説『生きて行く私』が80代の作品であることからも、晩年頃まで物語に組み込まれる可能性は高いだろう。

 ライターの田幸和歌子氏は、「朝ドラで宇野千代さんを描くことは今の時代に合っているのでは」と語る。

「近年の傑作朝ドラとして『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)を挙げる方が多いです。『カムカム』が評価されている要素は多岐にわたりますが、何よりも革新的だったのは、3人のヒロインを通して日本の100年間を描いた点にあります。各時代のヒロインの成長とともに、戦前から戦中、そして現代まで変わりゆく日本社会を描いたことで非常にスケールの大きな物語となっていました。これができたのも3人ヒロインという仕掛けがあったからこそです。『ブラッサム』のモデルとなる宇野千代さんは、明治から平成までを生きた人物。『カムカム』とはまた違う形で、100年の日本を描くことができるわけです。ここまで長期間生きた方をモデルにした朝ドラはなかったと思うので、ヒロインの成長とともに日本社会をどう描いていくかも注目です。また、宇野さんは数多くの代表作を遺していますが、85歳のときにもベストセラーを生み出しています。朝ドラ視聴者には中高年の女性も多いだけに、晩年に大輪の花を咲かせるヒロインの姿は希望にもなるのではないでしょうか」

 主人公・葉野珠役に抜擢されたのは石橋静河。映画・ドラマファンなら新作が待ち遠しい俳優の1人であり、彼女にしかできない役柄をこれまでも多く演じてきた。2024年のNHKドラマ10『燕は戻ってこない』では、倫理的タブーに踏み込んでいく女性を見事に演じきった。田幸氏は石橋の魅力を「きれいごとでは終わらない人間をしっかり演じられるところにある」と語る。

「“みんなに愛される明るくてかわいい”といったキャラが“ザ・朝ドラヒロイン”だとすると、石橋さんはこれまでそういった役柄を演じてきたとは言い難いです。『燕は戻ってこない』で演じた大石理紀や、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の静御前など、陰があり憂いを帯びたキャラクターを非常に巧みに演じられてきました。『燕は戻ってこない』でも、物語が後半に入り、理紀がどんどん“暴走”していくところに石橋さんの魅力があふれていました。珠のモデルとなる宇野さんは4回の結婚をされており、かなり波乱万丈な人生を送っています。そんなきれいごとでは終わらせない人間のリアルを描くために、石橋さんをヒロインに抜擢したように思います。これまでにない朝ドラであり、ヒロインになるのではないでしょうか。『カーネーション』が初めて不倫を正面から描いたときも批判はありましたが、それ以上に絶賛が多く、今でも朝ドラの傑作とされています。『ブラッサム』も史実をなぞるだけでなく、主人公の“業”や“葛藤”まできちんと描いてくれることを期待していますし、石橋さんならその重責を担えると思います」

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