朝ドラが結婚を通じて描いてきた時代性 『あんぱん』は“現代とのギャップ”を誠実に描く

 一方、現代を舞台にした朝ドラで自由恋愛による結婚を描ききったのが『ちゅらさん』(2001年前期)だ。

国仲涼子『ちゅらさん』の“真正直”パワーは今こそ必要! 総集編放送に寄せて

21世紀の始まりと共に放送を開始し、一大沖縄ブームを巻き起こした『ちゅらさん』(NHK総合)の総集編が5月3日より放送中だ。 …

 主人公のえりぃ(国仲涼子)は、恋愛衝動で行動するヒロインで、再会した初恋の人・上村文也(小橋賢児)と結婚する姿が劇中で描かれた。

 初恋の成就をファンタジーとして描いたコメディテイストの作品だったが、えりぃが文也との恋愛関係を「運命」だと繰り返し語るため、宗教的な「運命論」のようなものが作品の根幹にあったのが、今振り返ると興味深い。

 現代を舞台にした朝ドラの結婚相手は幼なじみ、同級生、仕事仲間がほとんどで、作品の根底には偶然の出会いを神聖視する運命論がある。逆にマッチングアプリのようなサービスを通して出会い結婚したというケースは描かれない。おそらくそういった婚活サービスは朝ドラで描かれる運命論的な恋愛とは相性が悪いのだろう。

 一方、近年興味深く感じるのは、アニメ映画『この世界の片隅に』や連続ドラマ『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)のような、見ず知らずの相手とお見合い結婚をする戦前の物語が支持されていることだ。

 どちらも朝ドラ的な物語と言われているが、結婚から始まる夫婦生活がとても魅力的に描かれている。この2作を観ていると自由恋愛による結婚こそが現代的で素晴らしいという価値観自体が揺らいでいるように感じる。

 その意味でも、『あんぱん』がのぶと二郎の夫婦関係をどのように描くのかは、とても気になるところだ。二郎は優しい性格で、「戦争が終わったら何がしたい?」と問いかけることで、のぶに今後の道を示そうとしているようにも見える。

 のぶは戦前の愛国思想にどんどん染まっていくのだが、現代から見れば間違った考えだったとしても、その時代を生きた人々にとっては当たり前だったことを誠実に描こうとしているように見える。それはお見合い結婚も同様で、戦前の日本の空気をただやみくもに否定するのではなく、新しい切り口で描けるかどうかが、今後の見どころとなっていくのではないかと思う。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

関連記事