『火垂るの墓』がNetflixで配信される意義とは? 「二度と観たいと思わない大傑作」の重み

 映画冒頭とラストシーンに現われる清太と節子兄妹は、キャラクターが赤く彩色されているが、これは霊体になっていることを意味する。霊の清太は他にも、母親の遺骨を抱いている現実の清太を離れた座席から見つめていたり、母親の着物を売りに出されることで泣き叫ぶ節子の声に耳を塞ぐなど数カ所に現われる。

 映画終盤、戦火を逃れて避難していたらしき3人の若い娘が赤、青、黄色のカラフルな色合いのスカートと小奇麗な洋服姿で「やっぱり我が家はええなぁー!」と笑いながらはしゃぐシーンがある。この直前に暗い防空壕の中で死んだ節子を抱いている虚ろな清太が描かれているため、栄養失調の痩せた身体で火葬の準備をする清太と、実家に戻ってきて楽し気な少女たち――つまり恵まれた者とそうでない者の対比が映像を通して際立っている。これに続く火葬の場面でも、節子の遺体を収めたつづらが燃えている傍に清太が座ったまま、背景は青空から夕暮れのグラデーションを経て夜空になる。この1カット内で数時間が経過しているわけだが、清太は身動きもせず妹が焼けて行く炎を見ているため、台詞で語るよりも雄弁に14歳の少年のやるせなさが現われている。

映画「火垂るの墓」について語っていた高畑勲監督 ネット配信が国内で初めて始まる

 高畑は生前のインタビューで「(戦時中は)悲惨な時代と言われるけど、悲惨だけでは人は生きていけない。悲しみも喜びもあったんです。子どもはそれを見つける天才ですから」と語っていた。その通りで、母が亡くなった後、親戚の叔母の家に身を寄せた初期はまだ楽しそうで、破裂した水道管から噴き出す水を飲み、頭を洗う清太のシーンは水しぶきの描き方も含めて作画が素晴らしい。兄弟で海に出かける道のりでは活き活きとした表情を見せ、防空壕で暮らし始めた頃の兄妹も叔母の目を気にしなくて良くなったこともあり、実に伸び伸びと描かれている。明るめのタッチで描写されるその暮らしも、次第に破綻して行くのだが。

 これまで日本では『火垂るの墓』はもちろん、多くのスタジオジブリ作品を動画配信サービスで観る手段がなかった。『金曜ロードショー』でジブリ映画を定期的に放送する日本テレビは2023年にジブリを子会社化しているが、その日テレが出資している動画配信サービスのHuluですら取り扱いがない。それだけに戦後80年という節目に、ようやく『火垂るの墓』がNetflixで本作が観られる意義は大きい。日本でも動画の配給窓口の問題が上手く処理され、他のジブリ作品が続いてくれるといいのだが、それはそれでまだ先の話だ。

■配信情報
『火垂るの墓』
Netflixにて、7月15日(火)より配信
声の出演:辰巳努、白石綾乃、志乃原良子、山口朱美
監督・脚本:高畑勲
原作:野坂昭如
製作:佐藤亮一、鈴木敏夫
製作総指揮:佐藤隆信、原徹
©野坂昭如/新潮社, 1988

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