『火垂るの墓』がNetflixで配信される意義とは? 「二度と観たいと思わない大傑作」の重み
海外のNetflixでは、2020年の2月から4月にかけて、スタジオジブリ制作のアニメ映画21作品が配信開始された。ところがこの世界約190カ国の配信対象に、日本とアメリカ、カナダが含まれていない。これはジブリ作品の配給権を獲得したのがフランスの配給会社ワイルドバンチであることが関係しているが、アメリカは独自に米ワーナーメディアの動画配信サービスで、ジブリ映画21作品の配信を2020年5月から開始している。大きく水をあけられた形の日本では、あらゆるサブスクリプションでジブリ作品が配信されていない。そんな中で、2025年7月15日からNetflixで『火垂るの墓』が日本で配信されると発表された。
2020年に海外でジブリ作品の配信が始まる際、実は『火垂るの墓』だけがラインナップに含まれていなかった。原作小説の出版元である新潮社が権利を有していたためである。それが2024年9月からようやく日本以外の約190カ国で配信がスタート。本作に初めて触れた世界中の映画ファンから絶賛されたのだ。
全文英語の海外の映画データベースサイトIMDb(インターネット・ムービー・データベース)における『火垂るの墓』は1,000件以上のレビューが投稿され、作品によっては辛辣な映画評が並ぶ同サイトで大半の人が10点満点を付けている。そのいくつかを拾ってみると、「『火垂るの墓」は、紛争下における人間の魂のあり方について描いた作品だ。高校の世界史の授業で必修にすべき作品です」「米軍機が爆弾を投下しているにもかかわらず、あからさまな反米メッセージは存在しない。日本の民間人も、爆撃を続ける米軍と同じぐらい冷酷に描かれているからだ」といったように、英語圏の観客がなかり真剣に映画に向き合っているのが見える。レビューにある「二度と観たいと思わない大傑作」という一文は、この映画の雰囲気をもっとも端的に表していると言えよう。
『となりのトトロ』と『火垂るの墓』、この同時上映作の監督を務める宮﨑駿と高畑勲で、腕の良いアニメーターの近藤喜文を奪い合う一幕があった。どちらの作品も近藤を欲しがったのだ。結果的に鈴木敏夫プロデューサーの、元アニメーターの宮﨑は自分で絵も描けるのだから近藤は高畑組に、という采配で『火垂るの墓』のキャラクターデザインと作画監督を近藤が担当することになった。その他にも『未来少年コナン』をはじめ、宮﨑の監督作品に多く参加していた河内日出夫、『アルプスの少女ハイジ』、『母をたずねて三千里』などで原画を描いていた羽根章悦、『パンダコパンダ』、『赤毛のアン』、『風の谷のナウシカ』に参加してきた才田俊次ほか、高畑、宮﨑両名からの信頼の厚いベテランアニメーターが本作に多く集まった。
戦時中の子どもが主人公であることから、とかく戦争論と結び付けて語られがちな『火垂るの墓』だが、こうした敏腕アニメーターたちの作画によって、長編アニメーション映画としての絵の魅力も充分に備えている。今やアニメ業界の重鎮だが、当時はまだ20代後半だった梅津泰臣、庵野秀明も原画に名を連ねており、この作品がいかに凄い才能の集団で作られていたかが分かろうというものだ。