『ジュラシック・ワールド』はもはや現実に 『炎の王国』を通して考えるゲノム編集と未来
現実味を帯びた、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』による警鐘
※以降、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』のネタバレを含みます
もともと、『炎の王国』はとんでもない映画である。前作で「ジュラシック・ワールド」は崩壊し、元運用管理者だったクレア・ディアリング(ブライス・ダラス・ハワード)は今や噴火の危機にある島に取り残された恐竜を救出しようと、かつてパークを生み出した亡きジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)とビジネスパートナーであった資産家、ベンジャミン・ロックウッド(ジェームズ・クロムウェル)に協力を仰ぐ。その際、彼女はベンジャミンに仕えるロックウッド財団の経営者であるイーライ・ミルズ(レイフ・スポール)から島にまだ残っている特別なヴェロキラプトル・ブルーを探す依頼を受け、元調教師のオーウェン・グレイディ(クリス・プラット)や仲間と共に島に向かう。
前半はそんな彼らの救出劇と、噴火による今の崩壊を描く本作。しかし、後半は全く違う映画が始まったのかと思うくらい、様変わりするのが『炎の王国』の特徴とでも言うべきか。ロックウッド財団の支援もあって救出したブルーを含む恐竜たちだったが、なんとベンジャミンの屋敷に運ばれたのち、闇オークションにかけられることになる。クレアに依頼をしたミルズは実は恐竜を生物兵器として利用しようとしたり、コレクションとして資産家に売り飛ばそうとしたりビジネスの道具にしようとしていたのだ。そして、映画の冒頭で怪しい傭兵たちが島を訪れ、インドミナス・レックスの骨を回収するシーンが描かれていたのだが、これがシリーズ最大のキメラ恐竜であり、生物兵器の「インドラプトル」と呼ばれる新種を生み出すために必要だったことが明かされる。これに対し、クレアとオーウェンは恐竜たちの軍事利用を阻止すべく、立ち向かうのだ。
これまでのシリーズでも、言ってしまえば恐竜をビジネスの道具にして儲けようとした金の亡者と彼らを生物として尊重しようとする考えの持ち主の対立は描かれてきた。むしろ、『ジュラシック』シリーズの基本的な構造はそこにある。しかし、『炎の王国』はこれまでの作品の中でも極めて「アニマルライツ(生物の権利)」に焦点を当てたものだと言える。それは、初めて直接的に貴重な恐竜が科学者や研究施設にではなく、私欲を持て余す金持ちに競売されるシーンを描いたり、ブルーのように生物兵器にする前提で生み出した遺伝子組み換え恐竜が登場したりするからであるが、何よりそれらのシーンが噴火で崩壊する島に無念にも取り残されたり、海に逃げて溺れ死んだ恐竜たちを映した後に展開されるからこそ、よりアニマルライツについて考えさせる構図になっているのだ。
『ジュラシック・パーク』の原作者であるマイケル・クライトンは、同小説を通して「生命倫理」や「テクノロジーの進歩と過信」について取沙汰してきた。かつてハモンドが夢見た“ノミのサーカス”の実現のために、この世に“復活”させられた恐竜は、本作でその生存権を人間が議論している間に死んだり、攫われたりしてしまった。ここで、やはりコロッサル・バイオサイエンシズの成し遂げたことが、今後の社会においてどんな意味をはらんでいくことになり得るか、私たちは考えなければならない。
同社は種を蘇らせることに用いる技術が、絶滅危惧種に指定されている現存の動物の絶滅を防ぐために活用できると主張し、それを目的として研究を進めているという。特にマンモスの復元から得た知見は、温暖化が進む地球の気候変動による荒廃に対し、より強靭で生き残りやすいゾウの遺伝子操作に役立つ可能性があると言われている。今後も、ダイアウルフに限らず、ドードーやフクロオオカミが“復活希望リスト”に名を連ねており、フクロオオカミの復活が例えば近縁種のフクロネコの保護に貢献できたり、ダイアウルフで得た知見が絶滅危惧種のアカオオカミの保護に活用できたりすると同社は考えているのだ。つまり、過去を利用して未来を救う考えである。
ただ、『ジュラシック・パーク』にも産業スパイが登場したように、そういった技術が理論的に可能となれば、同様の研究を進める企業は増えるだろう。そしてその目的も、人それぞれの倫理観に託されることになる。
思い出しておきたいのが、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』において重要だった議論が「噴火の危機にある島から恐竜を救い出すか否か」であり、「生存権を主張する」救出賛成派と「もともと絶滅していたはずの生物なのだから、自然淘汰に委ねるべき」と否定派に分かれていたことだ。映画のラストで、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)ぶりに登場する数学者イアン・マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)が私たちに語りかける言葉の意味を、映画のセリフ以上のものとして受け止めて聞く時が来たのかもしれない。
■放送情報
映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、5月10日(土) 21:00~23:20放送
出演:クリス・プラット(玉木宏)、ブライス・ダラス・ハワード(園崎未恵)、レイフ・スポール(内田夕夜)、ジャスティス・スミス(満島真之介)、ダニエラ・ピネダ(石川由依)、ジェームズ・クロムウェル(中田譲治)、トビー・ジョーンズ(高木渉)、テッド・レヴィン(黒田崇矢)、ジェフ・ゴールドブラム(大塚芳忠)、B・D・ウォン(近藤浩徳)、ジェラルディン・チャップリン(池田昌子)、イザベラ・サーモン(住田萌乃)
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、コリン・トレボロウ
監督:J・A・バヨナ
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