人はなぜ危ない男との泥沼恋愛にハマるのか 不倫やDV描く問題作『魔物(마물)』から考える

 人類にとって永遠の議題がある。それは「優しい男とクズ男どっちがいいか問題」だ。なぜか年に2、3度はインターネットで激論になる「デートの際には奢りか割り勘かどっちがいいか問題」とも肩を並べる鉄板のテーマだといえる。そしてこの議題のなによりもタチの悪い点は、盛り上がる割には答えがほぼほぼ出てしまっているということだろう。当然、“恋をするなら”できるだけ「クズ男の方がいい」という意見が多いのだ。

 結局、こと恋愛においては特に「優しいだけでは男はダメ」と言う絶対命題がある。例えば、『NANA』や『花より団子』といった往年の少女漫画を思い返してみても、ヒロインと彼女を想う優しい男と自分勝手なクズ男の三角関係において、敗北するのは決まって「優しい男」である。

「クズ男」にハマっていくロジック

 「不倫、DV、セックス、殺人……“愛”と“欲望”をセンセーショナルに描く美しく刺激的な……禁断の問題作」と謳うドラマ『魔物(마물)』(テレビ朝日系)は、“エリート未婚年上弁護士”を演じる麻生久美子 VS “DV既婚年下フェンシングコーチ”を演じる塩野瑛久の泥沼恋愛という構図で物語が展開されていく。

塩野瑛久が放つ色気に誰もが夢中になる 『魔物(마물)』“危険”な凍也役に釘付け

『魔物(마물)』(テレビ朝日系)を観つつ、気になる人物を調べた。スマホに表示された検索結果を見て、「またやってしまった」と思った…

 一方は、既婚者でありDV男でありしかも殺人容疑者でもあり、さらに自称「犬には好かれるんです。人間には嫌われるけど」という闇をも垣間見せるトッピング乗りまくりの危険な男、いや“特製クズ男”源凍也(塩野瑛久)。対する、華陣あやめ(麻生久美子)は前時代的な男性社会たる弁護士事務所に所属しながらも、自らの努力と実力で活躍を続けてきた将来を嘱望される敏腕弁護士だ。そんなあやめが凍也の殺人容疑の弁護を担当することになり、2人の距離は一気に縮まっていく。

 こちらとしては「あやめ、そいつだけは辞めておけ」となんとか彼との恋にハマらないように応援はするのだが、そんな願いも虚しくまんまとハマっていく。そもそも、あやめが「愛していたから」という理由で、とある殺人を犯すことになる結末自体は第1話の時点で既に判明しており、物語は彼女の約束された破滅に向かって真っ直ぐと突き進むのだ。にしても筆者の素直な感想としては、彼に沼っていくスピードが想像していた3倍は速い。速すぎる。クズ男の魔力とはこんなにもすごいのかと脱帽してしまう。特に筆者が「ザ・優しい男日本代表」のメンバーに名を連ねる側の男性であるという視点から言わせてもらうと、感情的には「そんなわけないだろ」といちいちツッコミを入れたくなるほどの信じ難い速度のフォーリンラブなのだ。だがしかし、今作を冷静に分析すればするほど、その恋に邁進してしまう理由と理屈は悔しいぐらいにわかってしまう。

 なぜ、彼女はこの“特製クズ男”にハマってしまったのだろうか。まず第一に、あやめが凍也を弁護する立場にあるという時点でかなり分が悪い。周囲の人間からは煙たがられ殺人容疑もかけられている状況で、私だけが彼の味方であり、さらに2人っきりでいる時にはとびきりの優しさを彼女に浴びせてくれる。「札付きのヤンキーが意外にも道端の犬をかわいがる一面を見せる」という“定番のアレ”に相当する、マイナスからスタートの加点方式で恋愛が発展していくのだ。ミステリアスな彼の、自分だけが知っている意外な弱さや思いやりにあやめの恋は燃え上がっていく。

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