『ジュラシック・ワールド』鑑賞前に押さえておきたい前提 過去シリーズを振り返る
終わりを迎えたと思われた、『ジュラシック・ワールド』の物語が再び動き出す。2025年8月8日に公開を控えた最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』に向けて、シリーズを復習する人も少なくないだろう。シリーズといえば、本作はあのスティーヴン・スピルバーグの生み出した歴史的傑作『ジュラシック・パーク』の直接的な続編でもあるので、パーク・シリーズの前提ありきで物語は作られている。しかし、長年のシリーズファンとしては正直なところ、もう『ジュラシック・パーク』ではなく『ジュラシック・ワールド』が主流になってきているような気もしている。それはそれで、少し寂しいものだ。
欲をいえば、第1作から全作を観てほしい気持ちもありつつ、もし『ジュラシック・ワールド』から本作の世界観に足を踏み入れるのであれば、“ミリ知ら”でもシリーズが楽しめる前提について触れていこう。
“企業映画”として振り返る『ジュラシック・パーク』シリーズ
全ての始まりである『ジュラシック・パーク』は1993年に公開され、当時のCGとアニマトロニクス技術の最先端を定義するような作品として話題となった。2018年に米国議会図書館にて「文化的、歴史的、または美学的に重要」な映画と判断され、米国国立フィルム登録簿に保存された。ただの“恐竜映画”ではなく、映画史に残る歴としたマスターピースなのだ。
物語といえば、ジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)という1人の裕福な資産家の野望――、遺伝子操作によって現代に甦らせた恐竜を柵で囲ったテーマパークを作ろうとしていた。とは言っても、映画の冒頭ではすでにパークはほぼ建設済みで、一般公開に向けて意見を聞くために専門家を招致するところから始まっていく。パーク視察者たちが実際に見学したところ、パークの“数少ない”エンジニアスタッフで、労働環境および給与に対して不満を抱えていたデニス・ネドリー(ウェイン・ナイト)が競合会社から持ちかけられたスパイ・妨害行為を行った結果パークのシステムがダウン。凶暴なT-REXやヴェロキラプトル、ディロフォサウルスなどの肉食恐竜が放たれて視察者を襲う。結果死者3名、負傷者数名の事故を引き起こしてしまった。
こうして幕を開けた『ジュラシック・パーク』シリーズ、あまり馴染みのない方からすると「ただ恐竜が出てきて大暴れする映画」に思うかもしれないが、実のところ“企業の不祥事映画”でもあるのだ。1997年に公開された続編の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』は、パークの事故から4年後が舞台。「島で見たことは口外しない」という秘密保持契約を結ばされた視察者一向が島に向かうところから物語は始まる。そして、それを破った数学者イアン・マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)が本作の主人公だ。しかし、彼は世間から嘘つき呼ばわりされて大学からもクビになる始末。一方、パーク建設地の島はあくまで観光用で、実は恐竜を飼育するための島が隣接していることが明かされる。そうとも知らずに訪れた裕福な一家の子供が小型肉食恐竜に襲われ、その責任を負う形でハモンドは退陣させられ、彼の甥がインジェン社の全権を引き継いだ。
この甥はハモンド以上の悪徳ビジネスマンで、恐竜で金儲けをする気満々。死者も出したのに、今度は「ジュラシック・パーク」を離島どころかアメリカのサンディエゴに建設しようとする。猛獣ハンターなどその道のプロを引き連れた舞台で島に向かう彼らに対し、ハモンドはその野望を阻止すべく表向きには“調査隊”としてマルコムをはじめとするチームを派遣。何も知らないマルコムは結局また大変なことに巻き込まれ、最終的にはT-REXがサンディエゴに上陸。ゴジラ顔負けの暴れぶりを見せて街を破壊するも、マルコムたちの活躍によって無事島に送り返された。なお、この一件で世間に「本当に恐竜が再生された」ことが明るみとなり、飼育島はハモンドの尽力によって恐竜の自然管理保護区域に指定された。
2001年に公開されたシリーズ第3作『ジュラシック・パークIII』は、前作から4年後が舞台。前作に登場した人間立ち入り禁止の恐竜自然保護区域付近で遊んでいた男と青年が行方不明になってしまう。そんな彼らを探すため、一般人が「ジュラシック・パーク」でマルコムとパークを視察した古生物学者のアラン・グラント博士(サム・ニール)を騙し、島に乗り込む騒動を描く。特にインジェン社が絡むストーリーではないが、これまでの物語を踏まえると、歴史的大ヒットしたこの恐竜映画シリーズが描くものが「この世の中ロクな人間が本当にいないよね」ということなのが面白い。マイケル・クライトンの書いた原作小説も、スリルやサスペンスあふれる描写が豊富ではありつつ根幹には「科学の力を使って神の真似事をした人間の愚かさ」を作品のテーマとしているので、映画シリーズもその精神を受け継いでいるのだ。
さて、本作『ジュラシック・ワールド』の物語は、こんなに不祥事ばかりでどうしようもないパークの事故から22年後から始まる。悪名高きインジェン社はマスラニ・グローバル社に買収され、マスラニ社長に所有される。彼は亡きハモンドの大ファンで、彼が夢見た恐竜のテーマパークを実現させ(!)なんと世界中から毎日2万人の旅行者が訪れる観光施設として「ジュラシック・ワールド」の建設に成功してしまったのだ。22年前のパークに比べ、何が改善されたから建設実現に至ったのか、企業の仕掛けを見るのも楽しいし、こういったテーマパークを作るにあたって何が重要なのか、そしてやはり何が原因でその完璧なはずだったパークビジネスを崩壊してしまったのか。『ジュラシック・ワールド』にはそういうことも描かれているのだ。