『あんぱん』河合優実の余白ある芝居を朝から味わえる幸せ 対比構造で描く女性たちの葛藤

 田川岩男(濱尾ノリタカ)の紋付袴姿から始まった『あんぱん』(NHK総合)第23話。蘭子(河合優実)の縁談を軸に、寛(竹野内豊)と千代子(戸田菜穂)、結太郎(加瀬亮)と羽多子(江口のり子)の夫婦像も描かれた。

 パン食い競争の準備をきっかけに蘭子に一目惚れをした岩男。たびたびあんぱんを買いにきていたようだが、交際を申し込むなどの過程をすっ飛ばして、結婚を申し込みにやってきた。岩男の口から出るのは、「家業を継いだ」「自分の母も17歳で父に見そめられた」という自分の都合ばかりで、そこに蘭子の気持ちをおもんぱかる余地はないようだ。こういった結婚の形があり得る時代であったとはいえ、蘭子には戸惑いしかない。言葉に出して大きく驚くことなくいつも通り郵便局に出勤する蘭子だが、荷物を忘れて取りに戻るなど、動揺は隠せていない。そして何より気になるのが、豪(細田佳央太)の反応だ。

 紋付袴を身につけた岩男が蘭子に結婚の申し込みに来ても、豪は背中を向けいつもと変わらないテンポで石を削っている。石を削る音を聞き、豪の背中をチラ見し、ほんの少し眉を寄せるまでの数秒に、蘭子から豪への淡く切ない恋心が詰まっていた。アバンで河合優実の余白のある芝居が味わえるとは、なんとありがたい朝なんだと感嘆してしまった。

 一方、女子師範学校に通うのぶ(今田美桜)とうさ子(志田彩良)は薙刀の指導を受けている最中。相変わらず、黒井(瀧内公美)にしごかれていた。うさ子を庇い、のぶは黒井に薙刀で挑むも、のぶの先手必勝の勢いは受け流され、黒井に引き倒されてしまう。黒井は「実に弱い」とのぶをなじり、「強くなければお国の役に立てません!」と宣言。悔しさを実感したのぶとうさ子は、強くなろうと決意する。

 黒井は、人を守るためには強くならなければならない、お国の役に立つためには強くならないといけないと言い続けている。後に嵩が描くことになる『アンパンマン』を踏まえて考えれば、強さだけが人を守るという理論には正直うなずけない。誰かへの優しさも強さであり、誰かに頼ることも強さであるはずだ。のぶが女子師範学校に通う設定は、モデルとなっている小松暢の史実に沿わないオリジナル設定。女子師範学校での強さに関する教えは、のぶの価値観に今後どのような影響を及ぼすのだろうか。

 また、蘭子の縁談とのぶの薙刀の試合の対比は、当時の女性に求められるものの二面性を感じさせた。家や金銭のための意に沿わない結婚、跡取りを作るための出産、亭主を立てる温順貞淑さが求められる一方で、戦争を目前にいざという時には家を守る強さも求められている。

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