バカリズムが確立させた“大作家”の地位 『ベートーヴェン捏造』は次の代表作となるか
芸人と脚本家、二つの側面を併せ持つバカリズムは、芸人でありながらも映画監督として名を馳せたビートたけし/北野武を想起させる。また、作品の中に笑いも落とし込める名脚本家として、「宮藤官九郎さんや三谷幸喜さんと並べても遜色ない」と評価した上で2人との違いを次のように語った。
「三谷さんと宮藤さんは、ドラマと映画、どちらも手がけていますが、2人の代表作を聞かれたとき、ほとんどの人がドラマ作品を挙げると思うんです。2人とも作風は異なりますが、小さいネタの使い方や、多くの登場人物を動かしていくスタイルが、映画の尺には収まりきっていないときがあるように感じます。また、制限という意味ではドラマの方が映画よりも多いと思うのですが、ある種何でもできる映画よりも、縛りがあるドラマのほうがその魅力が発揮されている。バカリズムさんもその傾向はあるのですが、発想がとてもコンセプチュアルな方なので、どんな表現媒体でも面白いものを作り出せる方だと思います。映画脚本作はまだ数が限られているので、作家性まで見えないところがありますが、『ベートーヴェン捏造』が『ブラッシュアップライフ』や『ホットスポット』と並ぶ代表作になる可能性は多いにあると思います」
『ホットスポット』の笑いを生む“ディテール”へのこだわりとは? バカリズムの“嘘”の巧さ
NHKドラマをはじめ、社会問題や多様性を細やかな配慮で繊細かつ緻密に描く良作は近年、明らかに増えている。それは実に喜ばしいことだ…さらに、成馬氏は『ブラッシュアップライフ』や『ホットスポット』で見せたバカリズムの手腕を、新進気鋭の映画スタジオ、A24になぞらえたうえでこのように分析している。
「彼の作品には“A24的な手法”が感じられます。どの作品もコンセプチュアルで独自の構造を持っている。芸人出身なので『笑い』の要素に毎回注目が集まりますが、その『笑い』の中にほっこりするものもあれば不穏なものもあるという感じで、とにかく解釈の幅が広い。アリ・アスター監督作『ミッドサマー』のような、“不気味さとユーモアの同居”がある。だからこそ、どんなさじ加減で料理するかで、作品の雰囲気がガラリと変わる。元々、芸人としてのバカリズムさんは目線が少し意地悪な毒のある笑いを得意としていたんですよね。ですが近年の『ブラッシュアップライフ』や『ホットスポット』では、誰も傷つかない優しい『笑い』になっていて、それが逆に不穏さに繋がっていたのですが、今回の『ベートーヴェン捏造』はバカリズムさんの本来の持ち味である“黒い笑い”が存分に発揮されるかもしれません。世界的な偉人・ベートーヴェンを“実はしょうもない人物だった”と描く構造は、まさにコントでもやってきたような得意技。人間の黒さやくだらなさを通して、作品全体のトーンを調整してくる作家なので、今回もそれが巧みに作用してくるのではないかと期待しています」
バカリズム作品に共通する2つのジャンル 『ホットスポット』の会話劇は“SF×あるある”
バカリズムが脚本を手掛ける『ホットスポット』(日本テレビ系)は、宇宙人が暮らす地方都市を舞台にしたSFドラマだ。 TVerで『…脚本家として、いま最も勢いのある存在のひとりとなったバカリズム。彼の脚本家としての腕前に対しては、信頼感すら醸成されてきている。今後、大河ドラマや連続テレビ小説への参加も期待せずにはいられないが、彼の作家性がどのように拡張されていくのか。まずは『ベートーヴェン捏造』で、その新境地を見届けたい。
■公開情報
『ベートーヴェン捏造』
9月12日(金)全国公開
出演:山田裕貴、古田新太
脚本:バカリズム
監督:関和亮
原作:かげはら史帆『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(河出文庫刊)
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹
制作協力:ソケット
製作:Amazon MGMスタジオ、松竹
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