興収で読む北米映画トレンド
『ゲット・アウト』の再来? ライアン・クーグラー新作『Sinners』北米1位も日本公開未定
2025年もっとも重要な映画のひとつが、もしかして日本公開されないかもしれない?
『ブラックパンサー』(2018年)のライアン・クーグラー監督とマイケル・B・ジョーダンが再びタッグを組んだ映画『Sinners(原題)』が、4月18日~20日の北米映画週末ランキングでNo.1に輝いた。3日間の興行収入は4560万ドルで、事前予想の4000万ドルを上回り、R指定ホラーとしては『NOPE/ノープ』(2022年)を超える好スタートである。
舞台は1932年、ミシシッピ州デルタ。第一次世界大戦を生き延び、シカゴでギャングとして働いていたスモーク&スタック(ジョーンズの一人二役)が7年ぶりに故郷へ戻ってきた。大量の現金と酒を持ち帰った2人は、地元の黒人コミュニティのために酒場(ジューク・ジョイント)をオープンするが、そこに恐ろしいヴァンパイアが現れ……。
黒人たちの歴史と伝承、音楽文化、そして現代ホラーを融合させた本作では、撮影監督を『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022年)のオータム・デュラルドが担当。女性として初のIMAXフィルムカメラ撮影となった。また、クーグラー監督にとっても初めての試みにクリストファー・ノーランがアドバイスを授けたことでも知られている。
音楽は『ブラックパンサー』シリーズや『オッペンハイマー』(2023年)のルドウィグ・ゴランソン。ブルースのミュージシャンを多数起用し、ヘイリー・スタインフェルドやジャック・オコンネルら出演者も楽曲に参加した。
北米では劇場公開前から高い評価を得ており、Rotten Tomatoesでは批評家スコア98%。観客からの支持も熱く、観客スコアは97%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「A」評価となった。なんとCinemaScoreの歴史上、ホラー映画がA評価を獲得したのは本作が初めてだ。
あらゆる意味で“『ゲット・アウト』(2017年)の再来”とも呼べそうな本作だが、日本での劇場公開は未定。ワーナー・ブラザースの主力映画がこの時点で日本公開を発表していないケースは珍しく、筆者の知るかぎり、あまりいい噂は聞こえていないのが現状だ。
ワーナー作品としては、クリント・イーストウッド監督の『陪審員2番』(2024年)が日本では劇場公開されず、U-NEXTでの配信リリースとなったことが記憶に新しい。ところが『陪審員2番』は北米でも公開規模を抑えるなど、コストカットの狙いが明白だった作品だ。
その一方、『Sinners』は北米3000館以上の拡大公開を実施。製作費こそ9000万ドルとやや控えめにも思えるが、ワーナーはクーグラー監督との間に「25年後に映画の権利を返還する」という異例の契約を結び、クリエイターとしての重要性を証明した。すなわち『陪審員2番』とはポジションがはっきり異なるわけで、仮に日本公開が見送られるとしたら――あってはならないことのように思われるが――その意味もまったく別だろう。