横浜流星×寛一郎らが放つ“男気”の連鎖 『べらぼう』はエンタメが必要な理由を教えてくれる

 馬面太夫の美声に遊女たちは涙を流す。自分の意志で芝居を見に行くことなど到底できない不自由な暮らしに思いを馳せながら。同時に、大門を出ていった瀬川とて自由の身になったわけではないということも痛感する。鳥山は「そなたの望むものはすべて叶えると決めた」と言うが、そうすることで彼女を囲い込んでいるようにも見える。

 吉原にいたときはもちろん、外に出ても続く籠の中の鳥のような人生。そんな現実が残酷であればあるほど、ひとときのエンタメに心が癒やされるものなのかもしれない。ならばと、吉原の遊女たちのために「俄」で歌うと決心した馬面太夫の男気。さらに、鱗形屋から蔦重は市中の地本問屋との折り合いが悪いという事情を聞いたときも、「だったらなおさら、あいつを助けてやりたいね。それが男ってもんだろ」と言い切るのだった。

 馬面太夫の直伝を逃した鱗形屋だったが一方で、他の男気に救われている面もあった。大ヒットとなった『金々先生栄花夢』の作者は、武家から転身した恋川春町こと倉橋格(岡山天音)。春町は、節用集の偽版を指示して罪を被せた家老を「男ではない」と言い、ろくに謝礼も出せない状況にも関わらず、鱗形屋の再起に力を貸すのだった。

 ここでいう「男」とは、性別というよりもなんらかの「力を持つ者」という意味あいが強い。自分に力があるのなら、それを自分より弱き者たちのために使うという心意気。それが、江戸っ子の好む「粋」な生き方だった。自分さえ良ければという考えでは、やがて行き詰まるもの。きっと誰かの力になりたいという気概こそが、その人の人生を輝かせるのだ。再び「吉原の遊女たちのために」と走り出した蔦重。その瞳の輝きに、こちらまでエネルギーを貰えるようだ。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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