綾瀬はるかは“声”の芝居も唯一無二 『べらぼう』『野生の島のロズ』に与えた“奥行き”
透き通るような白い肌に、さらさらの髪。綾瀬はるかといえば、その美貌と柔和な雰囲気からドラマ・CMにも引っ張りだこの人気俳優である。現在は映画『野生の島のロズ』の日本語吹替版、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の「語り」として、魅力的な声の芝居を披露している。
綾瀬の声は、甘く軽やか。けれどその声の裏には、力強さや母性も感じる。奥行きのある声によって物語に深みが生まれ、見る人の心を掴んでいく……。綾瀬の声にはなぜ奥行きがあり、多くの人の心を魅了するのか。今回の記事では、綾瀬の「声の魅力」について迫っていく。
まずは、『野生の島のロズ』のロズ役について振り返ってみよう。ロズは、プログラム通りにしか話せないロボットのため感情がなく、声に抑揚がない。けれど感情を押し殺して淡々と語る綾瀬の声には、甘さやピュアな部分がほんのり滲みでている。
ロズはやがて雛鳥のキラリ、キツネのチャッカリと出会ってさまざまなことを学び、吸収していく。動物からの教えに対し、貪欲かつまっすぐに学ぼうとする姿は、まさにピュアそのもの。その瞬間、「綾瀬の甘くてピュアな声は、ロズの純真無垢な性格とぴったりマッチしている」と気づく。
ロズの声は、キラリを育てていく過程で母性が少しずつ宿り始める。キラリがピンチを迎えるシーンでは、1人の母親として「自分の力で泳ぎなさい」と指示を出す。その声はどっしりとしていて、とても力強い。それはロボットの無機質なものではなく、わが子の未来を踏まえて心配し、そっと見守るように寄り添う母親の声だった。
このロズの声、どこかで聞いた記憶がある……。思い出した。ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)だ。本作はキャリアウーマンの亜希子が娘を持つ男性と結婚し、母親となっていく姿を描いたヒューマンドラマ。この作品で、綾瀬は主人公の亜希子を演じている。
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「私が笑ったら自分が笑った気になるってさ、私が傷つけられたら自分のことみたいに怒るってさ、自分が欲しかったもの全部あげたいってさ…ドラマでは娘のみゆき(横溝菜帆/上白石萌歌)を心配するたびに、亜希子の抑揚がない声に少しずつ「迫力」が生まれていく。その力強い声からは、みゆきが成人するまで絶対に育てようという強い覚悟を感じた。
綾瀬の声に覚悟を感じるのは、彼女自身が「覚悟の人」だからなのかもしれない。綾瀬は、過去に『日曜日の初耳学』(MBS・TBS)において、ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)のヒロイン・アキを演じた際の役作りで坊主頭にしたこと、7kg痩せたことについて赤裸々に語っていたことがある。
番組では「初めてやりたいと思った役だから思い入れが強くて。この作品が終わったら、辞めてもいいって思った」と、当時の心境を振り返っていた。
ひとつひとつの作品に覚悟をもって取り組んでいるからこそ、軽やかな甘い声に「芯や力強さ」といったスパイスが加わり、声に奥行きが生まれているのだろう。
綾瀬は、心の揺れや葛藤を声であらわすのも実に上手い。『野生の島のロズ』ではキラリに「愛している」と伝えられないもどかしさを、声に強弱をつけて表現している。無機質なロボットの声に、次第に感情がグラデーションのように乗っていく過程が実に見事で、私はスクリーンの前で思わず舌を巻いた。
綾瀬はこの他にも、映画『Mr.インクレディブル』シリーズでヴァイオレット・パーの声を担当している。ヴァイオレットはしっかり者でもあるが、すぐにカッとなって弟に手を出してしまう一面も。
強烈なキャラクターではあるが、綾瀬の声に抜けと甘さがあるのでハードな喧嘩・戦いのシーンも不思議と怖さを感じず、子どもが安心して楽しめるアニメになっていた。