『デビルズ・ゲーム』は“入れ替わりあるある”を覆した傑作 ボディチェンジの真の意味とは
配役の時点で始まっている『デビルズ・ゲーム』の“ボディチェンジ”
国中を震撼させるサイコパス殺人鬼一味を追う中で義弟を殺され、執念の捜査でその内の1人ジニョクを追い詰めるも共に行方不明になってしまった刑事ジェファン。捜索も打ち切られたところで見つかった2人は、なんと身体が入れ替わっていた……!?
韓国の制作会社ザ・コンテンツオンが制作した映画『デビルズ・ゲーム』。日本ではR15+指定を受けた本作は、区分に恥じない残虐描写満載、殺人鬼と刑事の熾烈な戦いを描いたアクションスリラーである。ただ、同ジャンルの他の映画と大きく違うのはボディチェンジ=身体の入れ替わりを大きく取り扱った作品であることだ。ここではその奇抜な主題が本作にもたらすいくつもの「入れ替わり」について考えてみようと思う。
あらすじで記した通り本作はボディチェンジを根幹とした作品だが、まず面白いのは、これが起きているのが作品設定だけでないところだろう。殺人鬼ジニョクを演じるのはチャン・ドンユン、対する刑事ジェファン役を務めるのはオ・デファンであるが、どちらの役もこれまで2人が出演してきた作品のイメージからは離れたタイプの人物像となっている。
特に冒頭、ボサボサ頭にドクロをかたどったフェイスペイントで人体を切り刻んでいくチャン・ドンユンの姿は強烈だ。“強盗を捕まえたイケメン大学生”としてスカウトされた彼の経歴を、この場面から想像できる人はまずいないのではないだろうか。もとより作品に応じてイメージを大きく変えてみせるのが役者の仕事ではあるが、彼の変貌ぶりはそれこそ身体が入れ替わってしまったに等しい激しさだ。キャステイングの時点で既に本作の「ボディチェンジ」は始まっているのである。
加えて面白いのは、劇中で起きるジニョクとジェファンのボディチェンジがただの入れ替わりではない点だ。
当初明かされない謎の事情によって身体が入れ替わるジニョクとジェファンだが、2人はめいめいが自分の思うように動いたりはしない。有利なのはジェファンの姿を得てその妻子をいつでも手にかけられるようになったジニョクのほうで、彼はそれを脅しに使ってジェファンから個人情報を聞き出したり、自分を裏切った3人の仲間を捕まえるよう命じるなど、一方的に彼を使う立場として君臨する。
「己の身体の持ち主が他人になったにもかかわらず、その使い道は自身が握ったまま」なジニョクと「他人の身体の持ち主になったにもかかわらず、その使い道を他人に握られたまま」のジェファンの立場は決して同格ではなく、まるでもう一度身体(=主導権)が入れ替わったかのような支配関係がある。また身体を盗まれたジェファンは、自分の正体を後輩刑事のミンソンに明かして協力を仰ぐ。ジェファンは指示通りにミンソンを動かすわけだが、困惑しながらも手伝うミンソンの姿は、まるでジェファンに身体を操られて=入れ替えられているかのように見ることも可能だろう。
自分で自分の身体を動かせることが自由とは限らない。時に私たちは自分の意思で起こす行動すら他人に主導権を奪われていて、それは身体が入れ替わってしまったにも等しい矛盾なのではないか。問いかけにすればややこしい疑問だが、本作はこの問題をスリラーとしての面白さに分かりやすく変換してみせている。外見が入れ替わるだけがボディチェンジではないのだ。