北米興行、アカデミー賞の週末で最低級の数字に ショーン・ベイカー監督の言葉が刺さる
年に一度の“映画の祭典”、アカデミー賞の授賞式が3月2日(米国時間)に開催された。もっとも賞レースの盛り上がりとは裏腹に、映画館の客足はまばらで、北米市場全体の週末興行収入は5330万ドル(推定)。アカデミー賞の週末としては少なくとも過去10年で最低、2025年の週末興収としても最も低い数字となった。
この結果には2つの理由がある。北米ではアカデミー賞のノミネート作品がほとんど自宅で観られるようになっていることと、『デューン 砂の惑星PART2』(2024年)が話題をさらった昨年とは異なり、大きな関心を集めるイベントムービーが不足していることだ。
日曜日の夜、「いま、映画体験が危機にさらされています」と授賞式の壇上で語ったのは、第97回アカデミー賞で作品賞など最多5部門に輝いた『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督だ。監督賞の受賞スピーチで、ベイカーは会場のドルビー・シアターに集まった人々と、画面越しに授賞式を見ている全世界に語りかけた。
「私たちが今夜ここに集まり、また中継を見ているのは、私たちが映画を愛しているからです。映画館で観客と一緒に映画を観ることは、ひとつの経験です。ともに笑い、泣き、叫び、怯え、すさまじい沈黙の中に座っている――世界が分断されているように感じる今、これはかつてなく重要なこと。自宅では味わえない共同体験です」
ベイカーが指摘したのは、映画館が続々と失われている事実だ。「映画館、とりわけ個人経営の映画館は厳しい状況にあります。パンデミックの期間に、アメリカでは1000近くのスクリーンが失われ、今も失われ続けています。この流れを変えなければ、私たちは大切な文化を失うことになる」として、自身のメッセージを力強く訴えた。
「フィルムメイカーの皆さん、大スクリーンのために映画を作り続けてください。私はそうします。配給会社の皆さん、何よりも劇場公開に注力してください。[中略]親である皆さんは、子どもたちに劇場で映画を見せてください。そのことが次世代の映画ファンやフィルムメイカーを育てるのです。そして私たち全員が、できる限り劇場で映画を観ましょう。そして、映画体験という素晴らしい伝統を守りましょう」
北米市場の年間興収は10億800万ドルで、前年の同時点と比較するとプラス11%の好ペースで推移している。大作・話題作の不足は春ごろまで続くが、この“貯蓄”をいかに守り、活かすことができるかが、まずはここから10カ月間の大きな課題となりそうだ。