『秘密』“青木”中島裕翔のおとり作戦発動! 解像度を上げて映すこの社会の矛盾
「おとり」という漢字はくにがまえに「化」と書く。『秘密~THE TOP SECRET~』(カンテレ・フジテレビ系)第5話では、第九の新人・青木(中島裕翔)が囲われた四角い箱に飛び込んだ(※本記事はドラマ本編の内容に触れています)。
第5話は私鉄沿線連続殺人事件の後編。薬剤師の里中恭子(中村ゆりか)の脳の映像から、恭子を刺したのはサラリーマンの田島(吉岡睦雄)と判明。麻薬常習者の田島に因縁をつけられた通り魔的な犯行だった。ではウイルスは? 同じ電車に乗り合わせた恭子以外の4人はウイルスに感染しており、爪が変色していた。
通り魔とバイオテロ。二つの異なる性質の事件は、ある人物を介してつながっていた。ウイルスの感染経路を探るため、青木は犯行当日と同じ車両に乗車。自らウイルスに感染し、おとりに化けることでもう1人の犯人をおびき寄せる作戦だった。命がけの捜査で青木が取り押さえたのは王福龍(水間ロン)。刺された恭子の前でかがみ込んでいた帽子の男が王だった。青木の爪に反応した王は、同乗の老婦人(白川和子)に詰め寄り、叫んだ。
王がウイルスをばらまいたのはまったくの偶然だったが、乗客を狙った犯行の裏に王自身の個人的な怒りがあった。恭子と王は面識があり、王はひそかに恭子に思いを寄せていたのだ。恭子を放って逃げた乗客たち、その中には毎朝、席を譲っていた老婦人もいた。故国を離れて働く王にとって、同郷の恭子は唯一心を許せる相手だったことが語られる。その存在が一瞬で奪われた絶望……。
脳の中をのぞき見る『秘密』はSF的な想像力の産物である。一方で、そこには人間ドラマがあって、私たちは作品を通じて生の人間の感情に触れることになる。王が抱いていた悲しみや故郷への思い、異国の地で生きる孤独があり、それらが積もり積もって、屈折した感情となった。それは、無意識のうちに恭子の死と彼女を放置して逃げた日本人に向けられた。それは自分たちを透明化し、壁を築く社会への怒りだったかもしれない。
王の怒りは日本人になりきろうとして、人を恨まない恭子の態度と裏表の関係にある。単なる社会派のドラマではなく、一人ひとりの内面を知ることで、この社会がはらむ問題を高い解像度で写すことができるのは、今作の設定がもたらす効用だろう。