『剣客商売』はいつまでも愛され続ける 時代劇に必要なものが凝縮された不朽の名作
山口馬木也が藤田まことから継承したもの 『侍タイムスリッパー』の成功に繋がった時代劇魂
『侍タイムスリッパー』が大ヒット。主人公で、現代の京都の撮影所にタイムスリップした会津藩士・高坂新左衛門を演じている山口馬木也に…ホームドラマチャンネルでの藤田まこと没後15年企画として『剣客商売』放送にあたり行われた山口馬木也の取材で語られた、山口が藤田から学んだことが、芝居や殺陣の具体的なことよりも、「神は細部に宿る」であることが印象的だった。剣の道も、生活も、丁寧に細部まで漏れなく徹底することで精度を増し、強い力になる。山口が主演を務め大ヒットした『侍タイムスリッパー』や、世界的に話題の『SHOGUN 将軍』(ディズニープラス)によって時代劇再評価の気運が高まっているところだが、日本の時代劇の真髄とは、藤田の大切にしている美術や所作などすべてにわたって細部を追求する心なのだろう。藤田も山口も歩くときに身体が上下に動かず、すっと安定しているのがさすが。最近の若い俳優は時代劇でも身体が上下してしまい、軽く見えてしまうことが少なくない。
藤田まことが守り抜いた時代劇の世界。どの回もおもしろいが、一作、おすすめするとしたら、TVスペシャルの『春の嵐』(2008年)。『剣客商売』初の長編小説を原作にした、『剣客商売』の本質が詰まっているように思えるエピソードである。大治郎の名を名乗り、辻斬りを行っている人物が現れた。犯人はどうやら、反・田沼意次派らしい。幕閣を揺るがす事件に発展するかもしれない緊迫感のなか、大治郎の嫌疑は晴れるのか。冷静に事態を見守る小兵衛。先妻が亡くなってから大治郎をどんな気持ちで育ててきたか、小兵衛が語る場面は染みる。藤田のセリフ術がすばらしく、長いセリフも聞き入ってしまう。余談だが、冬場、首元に襟巻きを巻いている藤田まことのフォルムが絵になるのだ。
また、シリーズ最高視聴率を記録した『女用心棒』は三冬が活躍する。女用心棒として雇われた袴姿の寺島が凛々しい。歌舞伎の名門の家の生まれだけあって、殺陣における着物の裾捌きなどにも寺島は隙がない。どこか少年剣士のような雰囲気も漂う。
『剣客商売』シリーズで興味深いのは、三冬のように女性が剣をもって活躍することである。ジェンダーレスなのだ。そして、小兵衛が若いはるに慕われているのはやや男性のドリームのような気もしないではないが、エイジレスともいえる。また、悪人と言われてきた田沼意次が人格者だったり、小柄な老人・小兵衛が剣客で、カラダはたくましいが大治郎がまだまだこれからの人だったり。あらゆる事象が、世の中こういうものだという常識から少しズレている。決まりごとにとらわれず、立ち止まって物事の価値を考えてみることができる物語は、令和のいまにはじまったことではなく、昔から愛されていたのである。
■放送情報
「没後15年 藤田まこと特集」
『剣客商売スペシャル』
CSホームドラマチャンネルにて、2月11日(火)10:00〜、2月23(日)07:15〜全6作品一挙放送
「助太刀」
出演:藤田まこと、山口馬木也、小林綾子、寺島しのぶ、蟹江敬三 ほか
2004年
「母と娘と」
出演:藤田まこと、山口馬木也、小林綾子、寺島しのぶ、宮本真希、松原智恵子、高杉瑞穂、夏八木勲 ほか
2005年
「決闘・高田の馬場」
出演:藤田まこと、山口馬木也、小林綾子、寺島しのぶ、宍戸開、内藤剛志 ほか
2005年
「女用心棒」
出演:藤田まこと、山口馬木也、小林綾子、寺島しのぶ、三浦浩一、梶芽衣子、大滝秀治、近藤芳正 ほか
2006年
「春の嵐」
出演:藤田まこと、山口馬木也、小林綾子、寺島しのぶ、松方弘樹 ほか
2008年
「道場破り」
出演:藤田まこと、山口馬木也、小林綾子、寺島しのぶ、中村梅雀 ほか
2010年
『剣客商売3』
CSホームドラマチャンネルにて、2月11日(火)04:00から全5話一挙放送
出演:藤田まこと、小林綾子、大路恵美、梶芽衣子、三浦浩一 ほか
2001年/全5話
『剣客商売4』
CSホームドラマチャンネルにて、2月24日(月)10:30から全11話を一挙放送
出演:藤田まこと、小林綾子、山口馬木也、寺島しのぶ、梶芽衣子、三浦浩一 ほか
2003年/全11話
※スカパー!では2月11日(火・祝)、2月23日(日)、2月24日(月・祝)は無料放送
★3月以降のラインナップ
『剣客商売5」『必殺商売人』