蓮佛美沙子の“神々しさ”と“痛み”に惹き込まれる 『バニラな毎日』が描く心との向き合い方
第2週では、オペラを作りにやってきた活動休止中の大人気ロックバンドのボーカル・秋山静(木戸大聖)の何気ない一言が白井のトラウマを呼び起こした。2022年にNetflxシリーズ『First Love 初恋』で頭角を現し、現在までずっとブレイク渦中にいる木戸はそのピュアな演技に定評がある。その一方でどこか達観した雰囲気があり、作品の上でもバランサーの役を果たしていることが多いが、今回演じる静は違う。その人懐っこさは愛らしくもあるが、やや軽薄なところがあり、「あなたは恋をしたほうがいい」「なんでも自分一人でできるって信じてませんか?」と上から目線のアドバイスで白井を困惑させるのだ。
しかし、それは自分に向けた言葉でもある。お菓子作りも音楽制作も孤独な戦いだ。一切の妥協を許さず、こだわり抜いたお菓子を作り続けてきた白井と、世間からのプレッシャーに晒されながら、常に最高の曲を届けてきた静。2人は正反対なようで、根本が似ている。似ているが故にぶつかることもあるが、癒し合うこともできる。
今回、クランクインの1カ月半前から製菓指導を受け、吹き替えなしでお菓子作りに挑んだ蓮佛。特に白井が夜の厨房でオペラを作るシーンは圧巻で、神々しくさえあった。同時に、今にも張り詰めた糸が切れ、壊れてしまいそうにも見える。そんな白井のオペラを食べ、「白井さんのケーキ、好きです」と彼女を、そして彼女と似ている自分自身を肯定する静。そうやって白井自身もお菓子作りを通して他者と関わることで、自分の心の声を聞いているのだ。佐渡谷のお菓子教室は生徒にとってはもちろん、白井にとっての“セラピー”の場でもある。
それを、佐渡谷がどこまで自覚しているかは今のところ不明だ。全てが謎に満ちていて、その強引で遠慮のない性格も、はちゃめちゃな関西弁も、音痴で上手いとは言えない歌声も、私たちが普段、締まっている感情を喚起する仕掛けなのではないか……とすら思えてくる。一方で、他人の心の傷を敏感に察知し、寄り添うこともできる佐渡谷。彼女も、ビター&スウィートで、スパイスもふんだんに効いているこのドラマと同じく侮れない。
■放送情報
夜ドラ『バニラな毎日』
NHK総合にて、毎週月曜から木曜22:45〜23:00放送【全32回】
出演:蓮佛美沙子、木戸大聖、土居志央梨、伊藤修子、和合由依、中島ひろ子、谷村美月、筒井真理子、永作博美ほか
原作:賀十つばさ『バニラな毎日』『バニラなバカンス』
脚本:倉光泰子
音楽:jizue
主題歌:SUPER BEAVER「涙の正体」
制作統括:熊野律時
プロデューサー:二見大輔
演出:一木正恵、安達もじり、押田友太、影浦安希子
写真提供=NHK