スティーヴン・スピルバーグらが追悼 巨匠デヴィッド・リンチの死にたむけられた言葉
デヴィッド・リンチ監督作が後続に与えた数々の影響
彼の手がけた作品はどれも名が知られており、代表作を絞るのは難しい。それでもやはり、『ツイン・ピークス』は間違いなく彼の代名詞といえる作品なのではないだろうか。出演女優による追悼を先述したが、作品そのものがリンチの後に続く監督たちに与えた影響も計り知れない。
マーク・フロストと共同脚本を手がけた本作は、ツイン・ピークスという平穏な土地を舞台に、女子高生ローラ・パーマーが他殺体として発見されるところから始まる。誰が彼女を殺したのか、そのミステリーを軸に描かれる群像劇は1990年の放送開始と同時に視聴率21.7%を記録し、全米を釘付けにした。1991年まで放送され、終わる頃にはその人気は世界的なものとなり1992年に映画化される。もはや90年代の社会現象の一つと言っても過言でない本作からインスパイアを受けたと感じさせる作品も多い。しかしその影響力の強さを真に感じるのは、放送から30年以上も経った2020年以降、現代の新進気鋭監督にとっても『ツイン・ピークス』がインスピレーションとなっていることである。
2024年のサンダンス映画祭で発表され、北米で5月に期間限定で劇場公開、のちのストリーミングで大ヒットを記録したと言われるA24のホラー映画『I Saw The TV Glow(原題)』も例に漏れない。監督を務めたジェーン・シェーンブルンは2018年に監督デビューを果たした気鋭だが、『I Saw The TV Glow(原題)』が『ツイン・ピークス』や『ツイン・ピークス The Return』の影響を受けていることをIndieWire誌にて語っている。そんなリンチファンを公言する彼らも、彼の死に対し「彼は自分に別の世界を見せてくれた最初の人でした。それは、自分が感じていたけど眠っている時以外に見たことのない、愛と危険の美しい世界でした」とXにて追悼している。
彼らのような影響を受けた監督は、数えきれないほどいるだろう。そしてスクリーンを通して影響を受けた私たち映画ファンも。筆者個人はコロナ禍で、鬼才がYouTube上で淡々と天気予報を報告するだけの動画に何度心をホッとさせられたか、わからない。
動画を再生すれば今でも「おはよう」とこちらに向かって挨拶する彼が本当に亡くなってしまったのか今しがた信じがたい。しかし、この動画の中でも、そして数々の監督作品の中でも、それに影響を受けた若手の作った作品の中でも、リンチは生き続けていく。