『海に眠るダイヤモンド』は朝子の人生そのものだった 最終回は視聴者の“ダイヤモンド”に

人々の生きた記憶が誰かの瞳を輝かせるダイヤモンドに

 しかし、あのときの誠がまさか澤田(酒向芳)だったとは誰もが驚いた展開だっただろう。自分の存在が朝子から鉄平を奪ったと罪の意識に苛まれてきた誠こと澤田の苦しみは、そしてすべてのきっかけとなってしまったリナの罪悪感は一体どれほどのものだったか。リナは、いっそのことみんなに怒ってもらいたかったのではないだろうかと思う。鉄平の母・ハル(中嶋朋子)がそうしたように、正面から怒ってくれたら誠心誠意謝ることができたのだから。謝って済む問題ではなかったとしても、リナが肝臓を壊す未来は違っていたかもしれない。

 残念ながら、リナにその機会は訪れなかったが、澤田にはやってきた。手をついて謝罪する澤田に、いづみは「あなたが生きてて、また会えて、良かった」と手を握る。それは、これだけの長い時間が経ったからこそ出てきた言葉なのだろう。どんな苦しみや悲しみも、時を経ることで徐々に癒やされていくことを「時間薬」や「日にち薬」などと言う。もし、朝子が新しい人生を歩みだしたばかりのタイミングで、真実を知ったとしたら、こんなにも穏やかには受け止められなかったはず。リナではなく、澤田にその機会が訪れたとはそういう意味なのだろう。

 人は人生を大きく変えた出来事に対して「もう昔のことだから」と言えるようになるまで、一体どのくらいの時間薬が必要なのか。生き物の亡骸が、地球の一部になっていくように。少しずつ私たちの生きた記憶も、やがて歴史の一部となっていく。長い長い年月を経て、その石炭が黒いダイヤモンドと呼ばれるほど遠い未来の人々にとって大きなエネルギーを与えたように。過去を生きた鉄平や朝子の思い出が現代を生きる玲央(神木隆之介/1人2役)に、そして私たち視聴者にも生きるパワーを与えてくれた。そう思うと、この世界にはなんと壮大なエネルギー循環が成立しているのだろうと唸らずにはいられない。

時間の流れに賭け、すべての思いを抱えて今を懸命に生きる

 すべてを知ったいづみを連れて、玲央は再び端島に行こうと誘う。以前、玲央と端島に向かったときは、島が近づくにつれてまるでまだ生々しい亡骸を目の前にするような心境だったいづみ。だが、鉄平のその後について知ることができた今は、もう黒いダイヤモンドになっていたのかもしれない。上陸するやいなや、一気に蘇っていく端島の記憶。もちろん年齢を重ねて、ぼんやりとしていた部分もあってもおかしくない。だが、実際に古いあのころのフィルムを見てみると、瓜二つと言っていた鉄平と玲央があまり似ていなかったことに思わず笑ってしまった。

 だが、会いたい気持ちが他人の空似を創り出す経験をしたことがある人は、少なくないのではないだろうか。別れてしまった恋人、疎遠になった友人、亡くなった家族……もう二度と会えないと思う人の面影が宿るような瞬間があるのだ。それが、何十年前の記憶となればなおさらだ。それだけ、彼女の人生でやり残した大きなことだったとも言える。

 そんないづみの積年の想いを、玲央が叶えてくれたという意味では、「時間の流れに賭けた」と賢将が言ったように「神の思し召し」といわれる領域の出会いだったのかもしれない。ふと、いづみが思いを馳せた心の中の端島に涙腺が刺激された。今はもういない愛しい人々が、こんなにも生き生きとしている。端島に置いてきた、記憶という名のダイヤモンドがキラキラと輝く。

 生前、鉄平が置いていったというギヤマンも、端島に置いてあった。それは朝子には物理的には届かなかったけれど、今こうして心の中で受け取ることができた。その眩しく温かな光景に、人が生きる上で避けることのできない「寂しさ」を抱きしめてもらったような気がした。命あるものは必ず、その終わりを迎える。見送り、見送られ、そして時の流れとともに忘れ去られていく。それでもすべてを抱えて今を懸命に生きる。たとえ旅立っていってしまっても、会いたい人たちは心の中で笑っていてくれるはずだから。そして、いつか自分がそっち側に近づいたときには「きばって生きたよ」と過去の自分に笑いかけてあげられたら。そんな人生を精一杯生きたいと思わせてくれるドラマだった。

■配信情報
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』
TVer、U-NEXTで配信中
出演:神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、中嶋朋子、山本未來、さだまさし、國村隼、土屋太鳳、沢村一樹、宮本信子、尾美としのり、美保純、酒向芳、宮崎吐夢、内藤秀一郎、西垣匠、豆原一成(JO1)、片岡凜
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介
プロデュース :新井順子、松本明子
スーパーバイザー:那須田淳、岡崎吉弘
音楽:佐藤直紀
編成:中井芳彦、後藤大希
製作:TBSスパークル、TBS
制作協力:NBC長崎放送
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/umininemuru_diamond_tbs/
公式X(旧Twitter):@umininemuru_tbs
公式Instagram:umininemuru_tbs
公式TikTok:@umininemuru_tbs

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