清水尋也、大西礼芳、藤原季節が示す“現在地” インディシーンをも支える演技者たち

 映画やドラマ、演劇といったフィクション作品は、私たちの生きる現実社会の鏡だ。とすれば、それぞれの物語世界の中で生きる俳優たちは、私たち一人ひとりの鏡に映った存在だともいえるだろう。俳優たちは自らの心と身体に特定のキャラクターを宿すスペシャリストだが、それ以前に我々と同じく生活者である。そんな彼ら彼女らの動向から、いまの時代や社会を“読む”ことができるのではないだろうか。ここでは清水尋也、大西礼芳、藤原季節の動きに注目してみたい。

清水尋也

『海に眠るダイヤモンド』©TBSスパークル/TBS

 現在の清水尋也のもっとも大きな活動は、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)で主要人物を好演していることである。本作は、1955年からの石炭産業で躍進した長崎県の端島(「軍艦島」ともいわれる)と現代の東京を舞台として壮大な物語を描き出すもの。ここで清水は、主人公・荒木鉄平(神木隆之介)の親友である賢将という人物を演じている。鷹羽鉱業の幹部職員の息子であり、幼い頃に父の転勤により端島にやってきた。感じの良い青年で、機転も利く。そんな人物である。

 『アンナチュラル』(2018年/TBS系)、『MIU404』(2020年/TBS系)、そして公開中の話題作『ラストマイル』のチームによる作品ということもあってか、本作は若手からベテラン勢まで手堅く華やかな布陣。これまでにも硬軟自在な演技でいくつもの大作に出演してきた清水だが、ここに主要人物のひとりを演じる者として名を連ねていることが彼の現在地を示しているだろう。作り手たちの期待感もうかがえる。

『海に眠るダイヤモンド』©TBSスパークル/TBS

 いっぽう、賢将とは真逆の人物を演じているのが公開中の映画『オアシス』だ。本作は高杉真宙とのダブル主演作。アウトローの世界で生きる、いや、そんな世界でしか生きることのできない若者たちの日常を描いた作品である。こちらは数々の作品で助監督を務めてきた岩屋拓郎監督の長編デビュー作で、さまざまな面において『海に眠るダイヤモンド』とは対照的な作品だ。物語は非現実的なものにも思えるが、私たちの不安定で先行き不透明な日常との重なりを強く感じる。映画のジャンルやテイストからいっても、いまの日本ではなかなかお目にかかることのできない野心作だ。しかも企画が本格始動する前から清水は出演を決めていたらしい。彼は大作だけでなく、インディ・シーンをも支える存在なのである。

大西礼芳

 主演俳優として気鋭の映画作家の長編デビュー作に貢献した存在といえば、大西礼芳もそうだ。彼女が作品の顔を担ったのは池田健太監督の『STRANGERS』。さまざまな甘い罠や不安が渦巻く現代社会において、自己を見失っていく女性の姿を描いた心理サスペンススリラーである。大西が演じる主人公・直子は、不思議な魅力を持ったひとりの女性に影響され、やがていつしか姿形が彼女のようになっていくーー。

 テーマ設定が非常に面白い作品で、直子のような人物に見覚えがある、あるいは身に覚えがある観客も少なくないのではないか。そして本作は、空間演出なども素晴らしい。観る者に下品な恐怖を与えることなく、絶えず気味の悪い感覚を抱かせる。主演の大西は作品の顔でありながら、『STRANGERS』の世界を構成するひとつのピースに過ぎないともいえると思う(最重要ピースだが)。こういう的確なポジショニングができる俳優というのは、映画ファンにとってもっとも信頼すべき存在だ。大学で映画を学んでいたというのが大きいのかもしれない。

『STRANGERS』©impasse

 そんな大西は2024年の夏、浅草にある浅草九劇のステージに立っていた。演目は、気鋭の劇作家で演出家の山西竜矢(演劇ユニット ピンク・リバティ)による『みわこまとめ』。大西が演じていたのはタイトルロールにもなっている主人公・実和子で、彼女の半生と歪な恋愛遍歴を中心に、現代社会を生きる人々の心のありようを描いた作品だ。大西はまさに本作の顔(ポスタービジュアルも彼女の顔がメインである)。映画にはカット割りがあるため、登場人物の人生は途切れ途切れ続いていく。しかしこの『みわこまとめ』の場合、出演者たちは絶えず舞台上に存在し続ける。そしてこれは実和子の物語なのだから、当然ながら大西は休む間もなく実和子として生き続けなければならない。演技者としての彼女の持久力に激しく感動した。

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