Amazonが仕掛ける“新・映画ビジネス戦略”とは 『レッド・ワン』が北米で好評を得た理由

 映画業界最大の稼ぎどき、ホリデーシーズンが迫ってきた。前哨戦となる感謝祭(サンクスギビング)には、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』や『ウィキッド ふたりの魔女』、そして『モアナと伝説の海2』という話題作が控える。

 その先触れとして11月15日に北米で公開されたのが、ドウェイン・ジョンソン主演のクリスマス・アクションコメディ『レッド・ワン』だ。3日間の週末興行収入は3407万ドルと事前の予想を上回るスタートで、『ヴェノム:ザ・ラストダンス』をおさえ、みごと週末ランキングのNo.1に輝いた。

 本作はクリスマスイブ直前にサンタクロースが誘拐され、ドウェイン演じる護衛隊長が、クリス・エヴァンス演じる賞金稼ぎとともにサンタ救出のためチームを組むストーリー。監督は『ジュマンジ』シリーズのジェイク・カスダン、脚本は『ワイルド・スピード』シリーズのクリス・モーガンが手がけた。

 製作はAmazon/MGM。当初はPrime Videoで独占配信されるAmazon Original作品として企画されたが、のちに劇場公開へと切り替えられた。3407万ドルという初動記録は、Apple TV+作品『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023年)を抜き、ストリーミング企業の主導作品としては歴代最高の成績だ。オリジナル脚本のクリスマス映画としても優秀な数字といえる。

 しかしながら無視できないのは、現在のハリウッドにおいて稀有なスター俳優のひとりであるドウェインが、今回も自らの主演・プロデュース作品に巨額の予算を投入したこと。『レッド・ワン』も製作費2億5000万ドル、広報・宣伝費1億ドルといわれており、この初動成績では劇場公開での黒字化は絶望的だ。今年、北米でひどいバッシングを受けた『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』と同等の予算規模と興行収入である。

 それでは、なぜ『レッド・ワン』は北米メディアから好意的に受け止められたのか。そこにはAmazonが、NetflixやAppleと同じく、従来の映画会社とは異なるビジネスモデルで映画界に参入しているという事情がある。興行収入がすべてを左右する映画会社とは異なり、ストリーミング企業の場合は、会員数や視聴回数、広告収入といった要素が映画の成否を決めるのだ。彼らにとって、映画の劇場公開は企業やサービスの“広告”である。

 実際のところ、これほどのブラックボックスはない。ストリーミング企業が、新作映画のリリースごとに会員数がどれだけ増えたのか、全編を視聴したユーザーがどれだけいたのか、実際の収入がどれほどだったのかを明かすことはないからだ。

 しかし最近、ひとつの傾向が明らかになってもいる。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』や『ナポレオン』(2023年)、『ARGYLLE/アーガイル』(2024年)などを手がけてきたApple TV+が予算を厳しく見直していると伝えられるように、劇場公開+配信のモデルを成立させるのもたやすいことではないのだ。

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