劇場版『It's MyGO!!!!!』「春日影」考察 音楽アニメ史への“逆張り”ライブはなぜ生まれたか

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替わりでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は編集部内随一(唯一)の“バンドリーマー”徳田が『劇場版「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」後編 : うたう、僕らになれるうた & FILM LIVE』を激オシします。

『劇場版「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」後編 : うたう、僕らになれるうた & FILM LIVE』

 11月8日より公開中の本作は、TVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』(以下、『It's MyGO!!!!!』)劇場総集編の後編にあたる。

 近年、2022年の『ぼっち・ざ・ろっく!』のヒット以降、2023年の『It's MyGO!!!!!』、2024年の『ガールズバンドクライ』と、俗に「大ガールズバンド時代」(『BanG Dream!』シリーズの用語だが)と呼ばれるブームが起きている。

 それぞれ十分すぎるほどの達成を果たしているなか、『It's MyGO!!!!!』は音楽アニメシーンにおいていかなる意味で「ロック」=「逆張り」を奏でたのか、ここに記しておこうと思う。

なんで「春日影」やったの?

 『It's MyGO!!!!!』が奏でたロックチューンとは、劇中歌「春日影」のことである。「春日影」は作中において、自分たちの「居場所」や「絆」を肯定する曲として演奏される。

照らされた世界 咲き誇る大切な人
あたたかさを知った 春は僕のため 君のための涙を流すよ
あぁ なんて眩しいんだろう あぁ なんて美しいんだろう

 ボーカリストの高松燈が加入したバンド、CRYCHICとMyGO!!!!!ではそれぞれ、燈がバンドメンバーに対して抱いた絆を歌ったものとして「春日影」は演奏される。

 これは『けいおん!』やその後の『ラブライブ!』を中心としたアイドル(アニメ)ブームでは定石とされた、「いま・ここにいる私たち」の絆を自己言及的に肯定する楽曲の使われ方と同様である。

 ところが『MyGO!!!!!』において「春日影」演奏シーンの直後には、むしろ必ずなんらかの「決別」が訪れる。

 アニメ版第3話、第7話においてCRYCHICとMyGO!!!!!が「春日影」を演奏した後、それぞれ豊川祥子と長崎そよが、とある理由からバンドを(一時的に)脱退してしまうのだ。そよが演奏後に激昂しながら放った「なんで『春日影』やったの!」というセリフは、あまりにも予想外な展開ゆえにネットミームと化した(そしてこのシーンはなぜか中国のアニメファンに特に人気だ)。

 このような「挫折」の描き方は、ふだん音楽アニメを見慣れている視聴者ほど意表を突くものとして現れるだろう。なぜなら「春日影」のライブ演奏自体には成功(大っ成功)しているからだ。「にもかかわらず」メンバー同士の関係が瓦解するところに、ある種の「逆張り」が存在する。

 たしかに従来の音楽アニメにおいても「挫折」はいくらでも描かれてきた。たとえば『ラブライブ!』の第3話では、駆け出しのスクールアイドルである高坂穂乃果たちのライブに、ほぼ一切の観客が現れなかったという形で。ただしあくまでもそれは「実力不足」とか「目標の未達」などの意味での、文字通りの挫折である。

 しかし「春日影」における「挫折」はやや事情が異なる。ライブ演奏自体は成功するにも関わらずメンバー同士に亀裂が生まれる——いわば「成功体験自体が新たな挫折を生む」という端的な絶望である。ここに音楽アニメの定石を覆す、「逆張り」としての「ロック」が存在するだろう。

演奏中はオーディエンスの好意的な反応とメンバーの晴れやかな表情に対して、うつむいた長崎そよの表情だけが隠されている

要楽奈の劇場版における立ち位置

 このような「春日影」の「逆張り」が、アイドルブーム以降の音楽アニメや〈日常系〉作品の歴史においていかなる意味を持つかは以下にて詳細に論じたので、今回は劇場総集編においてこの「『春日影』の呪縛」がどんな機能を果たすか、分析しようと思う。

 前編の『春の陽だまり、迷い猫』では、MyGO!!!!!のリードギター・要楽奈にスポットが当てられた。「総集編」と言いながら彼女のためだけに新規カット(というかエピソード)がほぼアニメ1話分にあたる長さで追加されていたのは記憶に新しい。

 楽奈の初登場はアニメ版第2話、同エピソードで彼女はライブハウス「RiNG」のカフェエリアのステージに現れ、唐突にエレキギターを弾き始める。飲食店としては明らかに「騒音」であるギタープレイを、しかし超絶テクニックの速弾きで披露するのだった。そして数フレーズ弾き終えたかと思えば「まんぞく。」とだけ漏らして(何も注文せず)退店する。

 “RiNGの野良猫”と呼ばれる楽奈はこのように、ギターのこと以外にはまったく興味を示さない。口数も少ないため人並みの感情を持っていない純粋な“ギター狂”であるかのように描かれていた。

 しかし『春の陽だまり、迷い猫』において、幼少期の楽奈についてのエピソードが多分に追加され、彼女の内面が詳細に伝わることとなった。実は楽奈にとって自身の拠り所は「おばあちゃんとギターだけ」で、彼女なりに孤独を感じていたことが明かされたのだ。

 そして「自分の居場所」として音楽バンドの結成を目指していた彼女が、ようやく自身の納得できるメンバーとして出会ったのがMyGO!!!!!のメンバーであった。

 そのMyGO!!!!!メンバーたちのオリジナル楽曲「春日影」がまさに「いま・ここにいる居場所の肯定」を意味するために、楽奈は誰よりも率先してこの曲を演奏し始めたのだった。しかしそれに関わらず演奏後に訪れるのはやはり決別である。誰よりも純粋に「春日影」のメッセージを受け取っていた楽奈の演奏の「成功」が決別を生み出したことで、「『春日影』の呪縛」はさらに強調されただろう。

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