『ライオンの隠れ家』坂東龍汰の特筆すべき表現力 “正解”を用意しない物語の始まり

 10月11日にスタートした金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)は、一見すると重たいと捉えられがちなテーマを扱いつつも、そこに毅然とした“正解”を用意して視聴者に訴えかけることはせず、「違う景色を見る」という台詞でも表現されるような“選択肢の広さ”――そしてそれは、どのような境遇の誰にも平等に与えられたものだと提示する。

 おそらくそうした選択肢の先には、成長などのポジティブな変化がもたらされることもあれば、そうではないことも往々にしてありうる。そうしたあやうさの上で、ただ“どうしたほうがいいのか”を模索する。非常に曖昧な感触ではあるが、そんなドラマになるのではないかと第1話を観る限りでは予感できる。

 淡々とした日常を穏やかに過ごす兄弟。兄の小森洸人(柳楽優弥)は市役所に勤める真面目な青年で、弟の美路人(坂東龍汰)は自閉スペクトラム症(ASD)で知覚・芸術の分野に突出しており、小さなデザイン会社で働いている。彼ら二人の“小森家”に、ある日突然“ライオン”と名乗る少年(佐藤大空)がやってくる。ここで暮らすのだと言いだすライオンが洸人に渡したスマートフォンには、差出人不明の「じゃあ、あとはよろしく」というメッセージが。それを見た洸人は、かつて子どもの頃に少しだけ一緒に暮らした異母姉の愛生(尾野真千子)のことを思い出すのである。

 まず特筆すべきは、坂東が演じているASDの青年の表現であろう。主にコミュニケーションに困難を抱え、変化に対して適応することは得意ではなく、特定の行動などに対して強いこだわりをもつとされるASD。もちろんそうした特性は、個々人それぞれによって異なるものがあり、一概に定義することはできないものだ。少なくとも本作中における美路人という人物のASDに関する描写に関しては、先に述べたような主だった特性を有していると判断できよう。

 兄の洸人との生活、それが繰り広げられる小森家という空間。職場であるデザイン会社との往復。近所のすでに閉店した飲食店での食事。そうしたルーティーン化した日常が存在しており、興奮状態になった時はゴーグルが手放せない。また食事の時にカレーライスでさえも具材とご飯を別々に食べるというのも、彼のルーティーン行動のひとつだろう。その調和が、ライオンという少年が介入してくることによって乱される。それでもライオンを警察に届けようとする洸人に「そのプライド(ライオンの群れ、ここでは親もとをあらわす言葉として使われている)は安全ですか?」と問いかけ、受け入れようとする。

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