『おむすび』が野菜に重ねて描いた“偏見” ハギャレンとの出会いが結に大きな影響を与える
ここで私たちの脳内でリフレインしたのが、結の父である聖人が口にした「どんなに味が良くても見た目が悪かったらクズになる」という言葉だ。農業を営む彼は、「出荷していい野菜は、形や大きさの規格が厳しく決まっている」とも口にしていた。これに結は首を傾げ、納得のいかない表情を浮かべていた。なぜなら正常に出荷される形の良いものと比べ、見た目の悪い野菜も変わらず美味しいからだ。つまり、“味=中身”は同じだということ。にも関わらず、ほかと見た目が違うと排除されてしまう。見た目の悪い野菜とギャルたちの姿が重なるのだ。
この物語が描かれている平成16年は、西暦でいえば2004年である。その翌年の2005年には竹内一郎による『人は見た目が9割』(新潮新書)が出版され、当時中学生だった私は大人たちから「人は見た目が肝心だよ」と口酸っぱく言われたことをいまだに覚えている。たしかに“見た目”というのは人のイメージを左右するものだ。しかし、“見た目”がどうであるかは本当にそこまで重要なのだろうか。そんなことはない。真に大切なことはほかにあるはず。食べ物も人間も“味=中身”が重要だ。あれから20年ほどの時を経て、私たちの誰もがそのように認識を改めたに違いない。
この令和の時代を生きる若い世代はとくに、他人の“見た目”などに左右されたりはしない。自分を好きでいられる状態で生きるのがもっとも健康的なのだと、みんな知っている。人それぞれにそれぞれの事情というものだってあるのだ。ギャルたちとの出会いにより認識を改めていく結は、2004年時点でもっとも進んだ考えの人間なのかもしれない。
■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、松平健、麻生久美子、宮崎美子、北村有起哉、中村守里、田村芽実、みりちゃむ、岡本夏美、谷藤海咲、松本怜生
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK