『虎に翼』に影響を与えた“ベテラン女優たち” 石田ゆり子、田中真弓、余貴美子らの名演

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が9月27日に最終回を迎える。日本で初めて女性として弁護士、判事、家庭裁判所長を務めた三淵嘉子をモデルに、寅子(伊藤沙莉)が激動の時代を乗り越えて、裁判官として法のあり方を見つめ直すリーガルドラマ。男女差別にはじまり、原爆裁判、朝鮮人虐殺、同性愛といったこれまで日本のドラマでは描かれてこなかった社会の問題にまで寅子は向き合ってきた。そんな寅子の人生において、欠かせない存在なのは、ベテラン俳優たちが演じる女性たちだ。ここでは寅子に影響を与えた5人の女性俳優の活躍を振り返りたい。

はる(石田ゆり子)

 女学校を出た後は結婚し、子供を産み、夫のために家を守ることが普通だとされていた時代。そんな時代を生き抜いた女性を力強く表現していたのが寅子の母・はるだ。家事も家計も完璧にこなす現実主義者な一面があり、気の強い寅子にも「はいかいいえで答えなさい」と厳しい言葉で迫るような、言いたいことはキッパリと言える女性。それは生きる覚悟を決めた(決めざるを得なかった)当時の女性像をまさに象徴していた。寅子がお見合いを拒否して進学をしたいと伝えた際にはるがかけた「頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い女のふりをするしかないの」という言葉は、この時代を生きてきた女性として、寅子の選択が茨の道であるということを知っているがゆえのもの。当時の女性が自分らしく生きていく厳しさを知っているからこその発言だ。

 だが、優三(仲野太賀)の戦死を知り落ち込んでいる寅子には「これ以上心が折れて粉々になる前に、お願いだから立ち止まって、優三さんの死とゆっくり向き合いなさい」と優しい言葉を投げかける。厳しい言葉の裏にあるのは寅子への愛。そんなはるを演じたのが石田ゆり子で良かったと心の底から思った。女性としてどう生きるべきかに悩む登場人物が多い中で、はるだけはどっしりと寅子を支えていた。石田の安定感は作品の中で一本の太い幹となって支えていたように思う。

稲(田中真弓)

 花江(森田望智)の実家である米谷家で働く女中として登場していた稲(田中真弓)もまた、寅子を長く支えてきた人物のひとり。序盤では「寅子さん、すべては手に入らないものですよ。今お抱えになっているものが、女の幸せより大事なものなのかどうか、ここいらで一度振りかえってみてはいかがでしょうか」と悩む寅子に都度アドバイスをしてきた稲。

 特に寅子との関係性が深くなったのは、寅子が新潟地方・家庭裁判所三条支部に赴任することになってからのこと。新潟で忙しくなった寅子を心配した花江が、本庁に出向く毎週水曜日と、仕事で家事に手が回らない時に家の手伝いするよう稲にお願いしていた。当初はまさかここまで深く寅子に関わることになろうとは想定していなかったが、いつしか寅子を支える母親のような存在となっていった。

 優未(竹澤咲子)は新潟の土地に馴染めず、寅子との関係性も良くなかった。そんな優未にとって、稲は本音で話すことができる唯一の存在だった。『ONE PIECE』のルフィや『ドラゴンボール』のクリリンなど、特徴的なボイスで演じてきた田中真弓。その深みのある声は、寅子よりも人生の先輩である稲に説得力をもたらしていた。

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