『海のはじまり』にみる生方美久の“脚本の妙” 『silent』『いちばんすきな花』との繋がりも

 目黒蓮が主演を務める連続ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)の第11話に今田美桜がサプライズ登場した。

 本作は、主人公の夏(目黒蓮)が大学時代に交際していた水季(古川琴音)の死をきっかけに、血のつながった娘・海(泉谷星奈)がいることを知るところからはじまる物語。脚本を手がけているのは、2021年にフジテレビヤングシナリオ大賞で大賞を受賞し、翌年に『silent』(フジテレビ系)で鮮烈なデビューを飾った生方美久だ。

 今田は、生方が手がけた2023年放送のドラマ『いちばん好きな花』(フジテレビ系)でクアトロ主演を務め、主人公の1人である美容師の夜々を演じた。彼女が勤める表参道の美容院「スネイル」は夏の社会人になってからの恋人・弥生(有村架純)の行きつけとなっている。第5話で弥生がお店を訪れた際には夜々はいなかったが、第11話で弥生が海を連れて再度訪問。この日は夜々の姿があり、海を担当した。なお、海役の泉谷星奈は『いちばん好きな花』で夜々の子供時代を演じており、容姿がそっくりと話題に。そんな2人がドラマでついに対面するとともに、両作の世界線が繋がっていることを改めて実感させる意義深いシーンとなった。

 そしてもう一つ、視聴者から注目を集めたのが夜々の服の色だ。夜々は母の沙夜子(斉藤由貴)から過保護かつ過剰な“女の子らしさ”を押し付けられて育ち、買い与えられるもの全てがピンク色だった。だが、彼女が好きな色は紫であり、好きな花も紫陽花でスマホの待ち受けにもなっている。そんな紫陽花を彷彿とさせる紫のトップスを着ていることから、彼女が今も自分らしく生きていることが伝わってきた。

 生方が手がける脚本では、そうした衣装や小道具がうまく作用している。特に生方のドラマに欠かせないものとなっているのが、スマホだ。その使い道は多岐にわたるが、とりわけ多いのが登場人物の溢れる想いが電話を通して描かれるシーン。『silent』で生まれつき耳が聞こえない奈々(夏帆)が、好きな人の声を聞きたい一心で想(目黒蓮)から着信が入ったスマホに耳を当てる場面に涙した人も多いだろう。『海のはじまり』では、水季が亡くなったという報せが母親の朱音(大竹しのぶ)から電話を通じて同僚である津野(池松壮亮)のもとに届く。視聴者に朱音の声は聞こえなかったが、悪い予感がして震える手でスマホを取る仕草やそのまま嗚咽する姿から、電話の内容はもちろんのこと、津野にとって水季がいかにかけがえのない存在であったかが伝わる場面となっていた。

 また『いちばん好きな花』では、夜々と沙夜子が電話で和解を果たす。沙夜子に理想を押し付けられてきた長年の苦しみを吐き出すも、直接は伝えきれなかった思いを電話で告げた夜々。相手の顔を見て話すことも大事だが、それだと冷静になれなかったり、面と向かっては言いづらくて口をつぐんでしまったりすることもある。そういう時、相手と物理的な距離があり、かつテキストでのやりとりよりも気持ちが伝わりやすいスマホの通話機能は便利だ。

 ドラマを観ていてもわかるように、今やスマホは私たちの生活に根付いており、連絡手段としてはもちろんのこと、音楽鑑賞や読書など娯楽活動にも欠かせないもの。生方のドラマでは、スマホと接続して音楽を楽しむイヤホンがキーアイテムとなっており、『silent』では紬(川口春奈)と想の繋がりを示すものとして登場している。高校時代、音楽を通じて距離を縮めた紬と想。2人はやがて付き合い、クリスマスには互いに有線のイヤホンをプレゼント交換した。だが、若年発症型両側性感音難聴と診断された想の耳がほとんど聴こえなくなると同時に、彼からもらった紬のイヤホンは壊れる。そして別れてから8年後、紬が落としたワイヤレスイヤホンの片方を想が拾う形で再会を果たす2人。有線のイヤホンからワイヤレスイヤホンへの変化が時代の移り変わりを映すとともに、紬と想がもう同じ世界にいないことを象徴していた。

関連記事